近藤誠一。2018年の最強位。
去就に注目される中、長年の経験を武器に再冠を目指す。
そしてその経験は…
色褪せることなかった。
いちはやくリーチと言いたい気持ちを抑え、カラテンのターツを外したのだ。
(俺がリーチといっても、どうせオリないだろう? ぼうや)
(はい、自分オリないっす)
3巡後、近藤がツモってきたのはだった。
近藤は意を決してカンでリーチに踏み切った。
この3巡の間にが3枚打たれてしまい、手変わりは薄くなってしまったのが大きいか。
ただ、それでも近藤は「待つ手はあった」と振り返る。
大きな体躯を揺らして桑田がツモる。
左腕をしならせて近藤がツモる。
大一番を制したのは…
桑田だ!
トイトイ・・の2000/4000!
近藤はリーチ後にツモってきた、そして打たれたを見て何を思うか。
あの形がテンパイすらしなかった寿人は。
絶望的な条件になってしまった小宮は。
女性初か
念願か
再冠か
連覇か──
あらゆる思いがごちゃまぜになったまま、あっという間にオーラスに突入した。
卓上は童心に帰られる場所
──麻雀はなぜこんなに面白いのか。
答えは1つではない。
カチャカチャという音。
牌の冷たい感触。
直感と理論。
技術と偶然性。
構想力と想像力。
画面にはごくシンプルに麻雀を打つ桑田の姿がアップになっていた。
桑田健汰(くわだけんた)は昨年最強位になり人生が変わったという。
大阪から東京に通い、強い人との対局が増え、自身の麻雀も大きく成長した。
ただ配牌1つに胸をときめかせ、ツモるたびに心を踊らせているのは昨年となんら変わらない。この舞台を楽しんでいるのが伝わってくるのだ。
卓を離れれば、誰もが仕事や生活に追われる一人の人間に戻る。
特に麻雀プロから麻雀をとりあげたら、無力な図体だけがそこに残るだろう。
しかしひとたび卓に付けば、我々は麻雀打ちになれる。
それはプロとかアマとか関係ない。老若男女も関係ない。
卓上では無心で戦うができるのだ──
親の寿人がカンをする。
オーラスの暗カンといえば… 瀬戸熊が倍ツモしたときを想起させる。
ドラマの予感。
桑田が仕掛けて逃げ切りを図る。
もう、なりふり構っていられない。
そうして、ハネツモ条件の近藤に絶好のが舞い込む。