松本にテンパイが入った。
普段打牌スピードが早い松本の、手が止まる。

か
・
のどちらかの待ちを選択することができる。
リーチ宣言時の長考は、待ちの選択があったという情報を他家に与えることになるため、本来なら無いに越したことはない。
松本がリーチ宣言時に長考することはかなり珍しいと思うが、それだけ優劣のつけ難い難しい選択だった。

待ちに取った場合、
が1枚切れているので見た目枚数は残り5枚。
ただ端にかかっているが残り1枚で、真ん中の
は当然他家に使われている可能性が高いため、山に何枚残っているか推測するのが難しい。
対して・
は2枚ずつ見えているので、見た目枚数は残り4枚と1枚少ない。しかし
と比べて場況は悪くない。
たろうと伊達が序盤にを切っているので、
は持っていなさそうに見える。

たろうに至ってはその後をツモ切っているので、保持率はかなり低いと見て良い。
堂岐は序盤にを切っているので、その周りの
は持っていなさそう。

さらに松本はを3枚持っているので、堂岐が
を持っている可能性も下がり、堂岐は
も持っていない可能性が高い。
の方が枚数としては1枚多いが、場況は
・
の方がはるかに良い。
当然松本も理解しているが、状況をややこしくしているのが点数状況だ。
このままリーチをしてツモると、満貫からスタートとなるが、点数状況的に満貫ツモと跳満ツモには大きく差がある。
満貫ツモの場合、点数はこうだ。
松本 :21,900点
伊達 :25,100点
たろう:27,000点
堂岐 :26,000点
全員が2万点台になり、松本にもトップの可能性が出てくるが、着順は4着のまま。これではオーラスもう1回アガらないと、トップはおろかラスも回避することができない。
しかし、跳満ツモの場合だとこうなる。
松本 :25,900点
伊達 :24,100点
たろう:25,000点
堂岐 :25,000点
超僅差だが、900点差で松本がトップ目に立つのだ。
もちろん超僅差なので、トップを取るためにはオーラスもアガる必要はあるが、満貫ツモの場合の条件よりもずっと軽い。
そして何より、オーラストップ目で迎えた場合、自身が放銃しなければ2着より下に落ちることが無いのが大きい。
ここで跳満をツモれば、この試合をプラスで終えられる可能性がグッと高まる。
リーチをかけるので、ツモって裏が乗れば跳満になるが、暗刻が2つあり裏ドラが乗りにくい形になっている。
待ちにすると、跳満ツモが確定する赤
ツモがあるため、
・
待ちより跳満の可能性が高いのだ。
場況の良い待ちを取るか、跳満効率をとるか。

松本の選択は待ちリーチだった。
・
は山に4枚残っており、
はたったの1枚。しかし、その1枚が松本が喉から手が出る程欲しい赤
だった。
直後、伊達がをツモ切る。
・
待ちなら、ここで伊達から満貫を出アガっていた。

松本の表情が、苦悶に満ちる。

直後、松本が4枚目のドラのを引きカン。

待ちリーチには、このパターンの跳満ルートもある。
もし・
待ちにしていたら、待ちが変わるため、この
はカンできず、ドラ3止まりになっていた。
新ドラは。松本は1枚持っているので、ツモれば倍満が確定する。


しかし、軍配は伊達に挙がった。
カンをツモり、2,000-4,000の加点となる。

勝負手が負け、松本は肩を落とす。
オーラスは松本が満貫をツモるも、4着のまま終局。
トップは伊達となった。

麻雀は抽選と選択のゲームであり、プレイヤーが介入できるのは選択の部分だけだとよく言われるが、シーズンが終盤になればなるほど、些細な抽選が想像を絶する残酷な結果を導くシーンが多くなってくる。