だからこそ今の私がいるんだって。
“逢川恵夢”が見せた新たな一歩は、Mリーグの大舞台で確かに刻まれたのであった。
仮面の奥に眠る温もり
「アイツは麻雀が下手でさー。本当なら見捨てたいんだけど…。」
そう言いながら、なぜか笑って肩を叩いてくれる先輩達がたくさんいた。
「なんだか人の良さで放っておけないんだよなー。」
そんな言葉に何度も救われてきた。
誰よりもデータにしがみつき、誰よりも不器用に真っ直ぐ。
だからこそ、道化の仮面を被ったジョーカーのように、笑いながら生きてきたのである。
そして、仲間に支えられ、居場所を与えられ、ようやく辿り着いたMリーグの舞台。
東4局3本場

永井はこの手牌から自風のを2枚とも見送った。
そして、2巡後には

「リーチッ!!」

先手一番乗りである。そして…
見守るファンや先輩たちは一瞬
「2枚目を見落としたのでは?」と心配したかもしれない。
しかし、試合後のインタビューで永井は落ち着いた口調でこう語っている。
「スピード的に、鳴いても間に合っていなかったのでスルーしました」と。
そして、迎えた
南3局

その眼差しは、じっと盤面を見つめていたのであった。
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モニターには膨大な牌譜データ。
夜更けにまで、ひとり部屋で食い入るように画面を見つめ、何度も何度も再生と停止を繰り返す。
「下手だ」と言われ続けても、それでも見捨てられなかったのは、人の良さと、このひたむきな眼差しだった。
仲間に支えられ、数字に支えられ、そして何より“麻雀が好き”という気持ちに支えられた日々。
あの孤独な部屋での時間が今、Mリーグの舞台に繋がっているのだ。
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導き出したその優しい眼差しの行方… それは

ドラのを引くと、今度は迷わずリーチをかけていく。
結果的にアガリには直結しなかったが、実際には山に2枚残っていたのであった。

まだまだ序盤ながらも、永井は苦しいチームに初トップという幸運のカードをもたらした。
そして同時に、自らがチームの“ジョーカー”としての役割を果たしてみせたのである。
しかし、このトップは決して自分ひとりで掴み取ったものではない。
地元で共に切磋琢磨してきた仲間。
時に厳しく、時に温かく声を掛けてくれた先輩たちのゲキ。
そして、新たな挑戦を背中から押してくれるサポーターの存在。
そのすべてがあったからこそ、今ここに立てている。その事を誰よりも永井孝典、本人が一番よく分かっており、感謝の気持ちで胸がいっぱいだろう。
そうでなければ、こんなに優しい目はできないのだから。
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ふと視線を落とすと──
街角のアスファルトには、また一枚のカードが置かれている。
それは偶然なのか必然なのか。
拾い上げたその先に描かれている絵柄は、まだ誰も知らない。