
今度は再び瀬戸熊のターン。
それは、5巡目の切りのシーンであった。

自身の形だけ見るならば、1枚河に捨てられたペンチャンというネックを解消し、をターツ候補として残せる
→
払いが自然だろう。
しかし、麻雀とは4人で行う競技。ましてや下家の逢川がソウズ模様の仕掛けを入れているとなれば話は全く別なのである。この時の思考を聞いてみた。
瀬戸熊直樹
「今年のテーマの一つに“しっかり押す”というものを挙げています。残りでは話にならないので、アガリに行くためならばドラの
も落とし、567の三色の勝負形に持ち込もうと。また仕掛けの上家という事は、逆に言うと、相手のテンパイまではこちらでコントロールできるので。めくり合いまで持ち込めればギリギリまで攻めれるかなと思ってました。」
それは、Mリーグ8年目のシーズンを迎えても尚、更なる進化を目指す姿であった。

の方は鳴かれてしまうのだが、これにより困惑の表情を浮かべたのが

流れてきたション牌のを掴ませると、雀頭の
に手を掛けさせてアガリと言う土俵から降ろさせた。
それと同時に
ピンズのホンイツ模様であった多井の手牌も破壊させ、逢川との一騎討ちの構図へ。
結果的に流局とはなってしまったが
思惑通りの三色に仕上げ、ギリギリまで攻め込み続けた瀬戸熊直樹。

この試合、結果は惜しくも3着だったが、その姿は2025-26シーズンをどう戦い抜くのか──
その指標を示す一局に私の目には映った。
微笑みの奥に潜む過去の孤独
東3局

苦しい放銃が続いた逢川に、ようやく巡ってきた親番チャンス。

僅か2巡目に力強くリーチを宣言し

そして一発ツモ。
卓上に響く、牌を叩きつけた乾いた音。
「バーンっ!!」
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「バーンっ!!(扉が閉まる音)」
「ただいまー!って言っても返事なんてあるわけないか(笑)」
高校を卒業して間もなく、家庭の事情により彼女は一人アパート暮らしを余儀なくされた。
自分の生活を支えるため、週5日はパチンコ店でバイト。それでも金銭的不安は拭えず、タウンワークをめくりながら「週1日でも働ける仕事」を探していた。そして、ふと目に飛び込んできたのが「麻雀店」という文字だったのである。
それと同時に胸をよぎったのは、幼い頃から慕ってきたおばあちゃんの姿だった。
家族がバラバラで寂しかった彼女にとって、おばあちゃんは心の拠り所。その大好きなおばあちゃんと、いつか胸を張って卓を囲みたい。
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「ツモッ!!」

「4,000オール!!」

とあるインタビューでの言葉が印象的であった。
“自分がポジティブになれる唯一のものが麻雀”
それは、ただ勝つためだけの道具ではなく、過去の苦しい記憶から自分を解放してくれるもの。
そして、大好きなおばあちゃんとの繋がりを結ぶ、大切なピースなのかもしれない。
南4局

瀬戸熊から5,200の直撃により、2着へと浮上。
大好きなおばあちゃん、見ていてくれたかな。
今、私はこうして大好きな麻雀で生きているよ。
永世女流麻王の称号を手にし、日本プロ麻雀協会の女流を代表する存在として、この舞台に乗り込んできた逢川。
だが、その根本にあるのは、あの頃からずっと変わらない想い。
何よりも大好きなおばあちゃんに、自分の姿を見せたいという願いだった。

その姿はまさに──クイーン。
気品に満ちた微笑みを湛えながらも、その奥には消えない悲しみを抱えている。
けれど今となっては、それは「麻雀」という存在と出逢えたキッカケ。