日本の壁:多井隆晴はなぜ【2筒】を切ったのか?【Mリーグ2025-26 レギュラーシーズン 観戦記 11/17 第2試合】担当記者 渡邉浩史郎

これを中田が仕掛けて、たった今中筋になった【4マン】切り。まだ自分の和了りを模索していく。

ここまでの一連の流れで再度最初の場面に戻ってみよう。

そもそも多井の目からは中田の手牌はどう見えるのだろうか。
仕掛け部分だけ見るとタンヤオに見えるが、すでに多井の目からはマンズが分断されているため、ブロックなし。
【7ピン】【8ピン】が残っている状態で押しており、【2マン】両面チーの仕掛け出しから打点がありそうな手ということ、【4ピン】がノーチャンスでそこのブロックが作れないことから【5ピン】が単独で2枚以上所持していることが濃厚。
ここまででタンヤオに必要なブロックが限定されていることから、かなり単純なタンヤオは出てきにくく、むしろ役牌が本線。しかも全役牌が中盤に一枚以上見えているため、ほぼ残っているW【南】が暗刻に見えるだろう。おまけに待ちはほぼソウズしか残っていない。

まずは一番安全に見える【5ソウ】について。
高宮への放銃は0%だし、中田についても一見安全そうに見える。

中田に当たる形について、まずシャンポンを考える。
【8マン】【7ソウ】と押した後の現物【2ソウ】手出しのため、この【2ソウ】は手牌に関連している。【3ソウ】【4ソウ】を持っているパターンが極めて多い。
今回は【2ソウ】が4枚・【1ソウ】が3枚見えているため。【5ソウ】がシャンポンで当たる形がかなり限定されており、複合パターンとしては
【2ソウ】【3ソウ】【3ソウ】【5ソウ】【5ソウ】
【2ソウ】【4ソウ】【4ソウ】【5ソウ】【5ソウ】
の2つしかない。
下のパターンはその前の巡目の無筋【7ソウ】切りが矛盾するため、実質【3ソウ】【5ソウ】のシャンポン一点しか出てこないと言えよう。
しかしその場合は前提条件となる【5ピン】対子以上・役牌暗刻とやはり矛盾するため【5ソウ】がシャンポンでの放銃となることはなさそうだ。
ではカンチャンはどうだろうか。
【6ピン】チー段階で逆再生すると

【4マン】【5ピン】【5ピン】【7ピン】【8ピン】【4ソウ】【6ソウ】【南】【南】【南】

前巡の【2ソウ】切りが無筋【4マン】を引いてきての振替だとすると

【5ピン】【5ピン】【7ピン】【8ピン】【2ソウ】【4ソウ】【6ソウ】【南】【南】

ではその前の【7ソウ】切りは?

【5ピン】【5ピン】【7ピン】【8ピン】【2ソウ】【4ソウ】【6ソウ】【7ソウ】【南】【南】【南】

ここから【8ソウ】のフリテンを嫌って【7ソウ】プッシュとなる。

ギリギリあり得る手順だと、恐らく多井は考えたのだろう。

では【2ピン】はどうだろうか。【4ピン】がノーチャンスで、自身から3枚見えの牌である。
中田の単騎聴牌・カンチャン聴牌率はかなり低い。
では高宮はどうだろうか。

高宮の河を見ると【8ピン】【9マン】【8ピン】【9ピン】と手出ししていて、【8ピン】切りの段階で一度ペンチャン固定を挟んでいる。
ペンチャン固定は手役を狙ったり他に4連形+両面のイーシャンテンといった時に多く発生しやすい。後者の場合、愚形にしか当たらない【2ピン】はかなり放銃率が低いだろう。
(雀頭【1ピン】【3ピン】【8ピン】【8ピン】【9ピン】【3マン】【4マン】【5マン】【6マン】【7ソウ】【8ソウ】【9ソウ】といったイーシャンテンの場合、形で【1ピン】【3ピン】切りが選ばれやすいため。)

前者の場合、手役で真っ先に思い浮かぶのが一気通貫・三色の2つだろう。

となると間に挟まっている9m切りに思考が及ぶ。
手牌に何らかの形で寄与していた牌であることは間違いないが、それがスライドなのか三色のくっつきで残された浮き牌なのかは特定しにくい。

いずれにせよ、【8ピン】【8ピン】【9ピン】という優秀な愚形が払われたことで、それより優秀ではない愚形であるカン【2ピン】が出てくることは限りなく薄いと多井は考えたのであろう。

簡単にまとめると、中田の打点が読めてしまったが故に、当たりとなり得るソウズを切りたくなくなってしまった。
そして中田に当たらず、高宮に当たる可能性が少ないであろう【2ピン】が2枚落とせるという事実がそこにはあったのだ。

(放銃率)×(放銃時予想打点)×(当たり得る人数)の数式が、多井の中で組み立てられてしまったが故の放銃。

今日は痛い試合となってしまったが、これがスーパーセーブとなっていた日もこれまで何度も見せてもらってきた。
今回ここに書いただけでは正直多井の読みの5割も深掘りできていないとは思う。故にこそ、また我々には考えられない”壁”の姿を見せてくれる日が来るだろう。

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