先にを切っていくおくことによってが鳴きやすい、という理由もありそうだ。鳴き手はゼロ秒で5ブロックに受けてしまう私はとても勉強になる一打だった。
この「ロボ」という通り名である小林と対照的な位置にいるのが
黒沢咲だ。Mリーグ名鑑で彼女のページを開くと
「彼女は我々凡人にはない悩みがある。それはツキが太すぎるという悩みだ。」
「ただ、だからと言って勝てるかというと、そういうわけではない。大きなツキが押し寄せる反面、その対処を間違うと、とんでもない災厄が待っているのである。」
(竹書房「麻雀プロMリーグ名鑑」より抜粋)
と書いてある。私ははじめてこれを読んだときにこう思った。
認められない。特定の人に好牌が集まる現象なんて、いかにもオカルト民が考えそうな思想だ。
しかし…しかしである。Mリーグにおける彼女の手牌や戦いをみていると、その思いも少しだけ揺らいでしまう。たしかに彼女のもとにドラが集まっているような気がするし、他の人がやらない役牌スルーから大物手をアガったり…と「セレブ打法」はちゃくちゃくと私の心に侵入してきているのだ。いつのまにか私の中の黒沢咲のイメージは「ミリオンシャンテンさだめだ!」(片山まさゆき)の中のめろん畑になってしまった。
©️片山まさゆき/竹書房
そしてその黒沢の手牌だった。
を切れば待ちのテンパイ。たしかにうまいこといったらタンピンになりそうだが、親という事もあり打点はドラ1で十分、押さえつけも兼ねてリーチを打つ人が多いだろう。
(何かセレブ感が足りないわね…)
そう思ったのか、黒沢はを切ったのだ!
こうしておけば、
という多くのツモで打点上昇する。どうせならを切ってほしかった。を切るとツモで待ちになるし、
ツモでアガらずからのフリテン5面待ちリーチも打てる。
もう行く道行ってほしい(笑)ツキが太い…なんてことは認められないが、こういう麻雀の方が見ていて楽しいのは間違いない。最初は多少嫌悪感を持っていたが、いつの間にか見入ってしまう魅力が黒沢にはある。
狙い通りをツモってリーチ!もしかしたら何巡か待って手が変わらなかったら、ツモ切りリーチをするためには置いておいたのかもしれない。いや、彼女の麻雀には
「の先切りを活かして召し取る」
とか
「親リーチで抑えつける」
なんて概念はなさそうだ。セレブなのだから。
そのセレブリーチを受けた小林の手番。
黒沢の捨て牌は
←リーチ
である。いかにもセレブっぽい…じゃなくて、好形っぽくて押しづらい。
→と切ってのリーチは好形率が高まるだけでなく、
小林が切りたいの放銃率も少し高まると言える。
さすがにここはを並べてオリるか…そう思ったら
小林は少考した後にを押した。好形っぽいとはいえ、通ってないところは多く、自分の手牌は仕掛けが利く上に、場はピンズが安い。ギリギリ見合うと判断したか。
“ツキなどという不明瞭なものを最大限活かすよう打つ黒沢”vs“理詰めで得を重ねていく小林”。見ていてこれほど面白い対決はない。
この戦いを制したのは——
めろん畑だった。
(庶民は3900を拾ってなさい)
と思ったかどうかはわからないが、最近の黒沢は本当に伸び伸び打っているように見える。(Mリーグが開幕した直後は緊張があったのか、迷っているように見えた)