博打場の
お作法
博打場にはいろいろな作法があります。
30年以上前、東風戦が初めて登場したのが、歌舞伎町の裏通りで行われていた旅館麻雀。
バブル経済時代のマンション麻雀よりも、さらに古い時代の話です。
古い話ですが、博打場の作法(マナー)は、あまり変わっていないので、いくつか紹介したいと思います。
●勝負金は多めに。
朝までの勝負で、途中で持ち金が無くなることは避けたい。
勝てそうな差しウマを受けたり、泣きの半チャン(延長戦)のレートアップにも耐えられるだけの余裕が欲しい。
こういう場所に出入りするのは、たいてい誰かの紹介が要る。
紹介してくれた人の顔をツブさないためにも、少なくとも最初の数回は借金をしてはならない。
金離れの悪いギャンブラーは、対戦相手にも胴元にも嫌われる。
また対人ゲームでは、こうしたメンタルな要素が、勝敗にも微妙に悪影響するのだ。
●博打は一本、泣くんならやるな。
博打は一本のほうはさて置き、負けて泣きごとを言うのは、博打場では嫌われる。
私見ですが、ギャンブルは、民俗学や文化人類学で言うところの「ハレ」(晴れの舞台など)のシーンに近いのではないしょうか。
つまり、祭りや結婚式のようなものだと。
「ツイてない」
「金を貸してくれ」
などとボヤくことは、もしかしたら日常を持ち込む行為として敬遠されるのかもしれません。
ちなみに日常のことは「ケ」と言うそうです。
言葉だけでなく、舌打ちや貧乏ゆすりのような「ケ」以下のネガティブな行為もタブー。
「アカ抜けねー野郎だな」
と、その後あまり誘われなくなってしまうんです。
●カモは博打場の共有財産。自分のものだと思うな。
博打場で運よくカモに遭遇すると、徹底的にカモりたくなるのが人情。
勝てるチャンスに目一杯かっぱいでおくのが、トータルで勝つためのコツですもんね。
ただし、胴元が仕切るような博打場では、カモは旦那衆として胴元にとても大事に扱われていることを知っておいたほうがいい。
博打場の人員構成は
①胴元。
②胴元の手先の打ち子。
③フリーの雀ゴロ。
④旦那衆。
このうち、そこにお金を運んで来るのは、旦那衆だけなのだ。
フリーの雀ゴロが出入りさせてもらえるのは、胴元の利益を損ねない場合に限られるんです。
旅館麻雀で、いつもは負けてる中年の雀ゴロが、その晩はツキまくって旦那を徹底的にカモってました。
「社長、差しウマを往復ビンタのドンデンにしないかい?」
ローカルなギャンブル用語ですが、要はウマを大きくするということ。
その時胴元の顔色が険しくなったように見えました。
休憩時間に雀ゴロがトイレに立つと、すかさず胴元がついて行った。
しばらくして帰って来た雀ゴロは、ケガこそしていないものの、かなり青ざめておりました。
その後は胴元の打ち子が一人入って勝負続行。
雀ゴロは無口になって連敗し、朝までには勝ち分を、かなりはき出したようでした。
鉄火場でもギャル雀でも
好かれたほうがいい
ぼくは胴元にはわりと気に入られてようですが、若いわりに金払いがそこそこで、あまり強くなかったからかもしれません。
胴元から見れば、打ち子のように面倒をみなくてもいい、便利な手駒の一人だったかも。
「山ちゃん、今晩例の集まりがあるんだけど、どう?」
いつもの高田馬場の雀荘でバラ打ち(フリー麻雀の原型)をしてたら、胴元に誘われました。
「でも、箱テン3回分くらいしか、タネ銭がないですよ」
「山ちゃんならそれだけあれば上等。万が一溶けそうになったら回すよ」
若い客に対しても、お世辞を忘れません。
タネ銭が薄い時ほどツカないのがギャンブルの原則。
数学的な根拠はゼロですが、メンタルな部分ではかなり影響はありそう。
原則どおりの連敗です。
「山ちゃん、イッソク飛ばそうか?」
●イザと言う時には、借金ができること。
イッソクというのは十万円を束にしたズクのことですが、実際に飛んで来るのは、1割の利息を引いた九万円。
事前に借りないのは、この金利が高いから。