東3局3本場、7巡目にカンでテンパイを入れるが、これもダマテンに構える。
一手変わりで三色が付くこともあるだろうが、なによりもにアガリの感触がないことが一番の理由だろう。
河をよく見ると、この巡目までソウズは黒沢の切っているの1枚しか顔を見せていない。
ソウズの真ん中は他家に厚く持たれていると朝倉は読んだのだろう。
読み通り、全員の手牌にソウズの真ん中は厚かった。
朝倉の欲しいを除いては…。
こちらも考えなしにリーチをかける人であれば山に3枚残りのをツモって1,000・2,000、あるいは2,000・4,000になっていたかもしれない。
朝倉は考えた。だからこその500・1,000。
南2局、朝倉はここから切りを選択してカンの受けを固定する。
他家の手出しから、が山に多く残っているだろうと考えたのだろう。
しかしこのも朝倉の手を避けるように他家に切られていく。
「だから山にあるのは知ってんの!!」
と、もはや叫びにも近い声が聞こえた。
読みは鋭かったが、ツモだけがついてこない。
そんなまどろっこしい展開の中で、事件は起きた。
南3局、親の黒沢の手牌。
をポンしてチンイツの単騎テンパイ。
不幸にも、そのを掴まされたのが朝倉。
20秒ほどの長考の末、をツモ切って黒沢に痛恨の12,000点放銃。
この20秒間、一体何を考えていたのか?
私の問いに朝倉は重い口を開いた。
朝倉「ピンズの一色手だってことは当然分かってたから、放銃したら高いことも十分承知してた。だけど手を崩してオリたとしても、黒沢さんがアガれば自分は4着濃厚になる。自分の手も十分にアガリりの見込める手牌だったから押した方が得だと思ったんだよね。」
それにね…と続けて自身の読みについても語った。
朝倉「自体の危険度はあまり高くないと思ってた」
朝倉「僕が1巡前に切った、そしてたろうさんが切ったの両方を鳴いてない。そしての手出しが入って、僕が切った2枚目のをポン。これらの情報からが当たる牌姿がイメージできなかった」
実際に黒沢はたろうの切ったを鳴ける牌姿であったが、鳴かなかった。
このことが朝倉の読みを狂わせた。
一色手だと考えて、全ての牌でオリることは簡単だろう。
しかし朝倉は自分の読みを信じて攻めることを選択した。
この放銃を誰が攻めることができようか。
考えなしに不要な牌を切ったのではない。
朝倉という強すぎる男が、20秒という長い思考の末にたどり着いた答えなのだ。
オーラス、逆転のツモり四暗刻のテンパイを入れるが、最後の1牌が朝倉に微笑むことはなかった。
思考を絞りつくした先に待っていたのは-53.2ptという残酷な結末。
麻雀というゲームの儚さを感じる。
しかし、パイレーツの朝倉の航海はこんなことで終わりやしない。
この荒波を乗り越えて朝倉は戻ってくるだろう。
Mリーグという航海の終着点で、不器用に笑うその姿が容易に想像できる。
なぜかって?
そんなの、強すぎるからに決まっているじゃないか。
阿部柊太朗
最高位戦日本プロ麻雀協会所属。オンライン麻雀「天鳳」の牌譜機能を駆使した超緻密な観戦記が話題に。ブレイク間近の若手プロ雀士。
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