しかし、その悲しみは観戦者全員が共有していた。「放銃しやがって」と責めるものはいなかった。「朝倉がんばった」「よくテンパイとった」「惜しかったあさぴん」朝倉の健闘を称える言葉がコメント欄を満たしていた。
アガリも見ながら、懸命に流局時テンパイを取りに行く姿で、見るものに感動を与えた朝倉。このシーンはMリーグファンの胸に深く刻み込まれたに違いない。
しかし、これで終わりではなかった。
控室で朝倉は泣いていた。悔しくて悔しくて、あふれ出るものを抑え切れなかったのだろう。
と、そのときは思った。しかし、それだけではなかったようだ。
涙の本当の理由は…
2戦目でトップをとった石橋が朝倉を慰める。本当にいいチームだ。
路上感想戦で朝倉は語った。
『黒沢さんのリーチに一発でを押せなかったのはミス』。
なぜなら、状況を踏まえると、で持たれていた場合にははリーチ宣言牌まで引っ張られずに、先に1枚外されている可能性が通常よりかなり高いからだ。
その先切りされるであろう理由は3つ。
①は第一打に亜樹が切っていて1枚切れだったこと。
②は仕掛けている朝倉にも、親の寿人にも危険牌だったこと。
③黒沢の雀風が、完全イーシャンテンにこだわるタイプではないこと。
なるほど、確かに先切りされる要素はそろっているように思える。ということは、あの局面では、からの切り出しではないだろうから、は通る可能性が高い、ということか。
それを、帰宅してから自身のツイッターでもまとめていた。
朝倉の最大の強さは、この「果てなき探究心」ではないだろうか。泣くほど悔しい思いをしても、それを当日すぐに反省し、検討し、勝つためのエネルギーに変えていく。
朝倉にとって、プロ生活もMリーガー生活もまだ1年目だ。今回の反省内容もハイレベルのものだ。これからどんどん経験を積んでいったら、いったいどれほど強くなるのだろうか。
『天鳳位なんて到達不可能だ』
朝倉は、人類で初めて天鳳位まで登り詰めた。
『ネット雀士はリア麻では通用しない』
朝倉は、天鳳位VS連盟プロ1st seasonと麻雀駅伝の三人打ち区間を文句のつけようのない内容で勝利し、通用することを実証した。
『ケイテンなんて価値がない』
朝倉は、テンパイ料の大事さを麻雀界に浸透させた。
麻雀界において数々の既成観念をぶち壊してきた朝倉。しかし、我々が目にしているのは伝説のほんの序章に過ぎないのかもしれない。もうすぐ始まるMリーグ後半戦をはじめ、これからの活躍を願ってやまない。
私は生まれ変わっても、もう一度朝倉康心の兄として生まれたい。
(C)AbemaTV
京大法学部卒の元塾講師。オンライン麻雀「天鳳」では全国ランキング1位。「雀魂」では4人打ち最高位の魂天に到達。最近は、YouTubeでの麻雀講義や実況プレイ、戦術note執筆、そして牌譜添削指導に力を入れている、麻雀界では知る人ぞ知る異才。「実戦でよく出る!読むだけで勝てる麻雀講義」の著者であり、元Mリーガー朝倉康心プロの実兄。x:@getawonarashite