西原理恵子 & 山崎一夫 究極のギャンブラー むこうぶちの時代!

究極のギャンブラー
むこうぶちの時代

西原理恵子さんと私の古い共著「カモネギ白書」(竹書房・角川文庫)の巻末に、「ギャンブル用語辞典」がオマケで付いております。

●向こう打ち(むこうぶち)
日本における究極の博徒。博徒はふつう胴元としてテラ銭を稼ぐか、盆のサクラとして生計を立てている。向こう打ちとは、どの組織にも属さない一匹オオカミの真のギャンブラーなのだ。

「事典にしては、文体がぜんぜん事典ぽくない」

思わず自分で突っ込んでしまいました。

単行本に登場する人物像や、できごとは、今から三十年以上前のもので、向こう打ちという博徒用語を、特定の場所でたまに耳にすることがありました。

本誌の長期大人気連載の「むこうぶち」は、こういう世界にも詳しかった故安藤満プロの原作で当初スタートしたものです。

麻雀の場合、その反対の立場にあるのが、裏メン(裏メンバー)や打ち子と呼ばれる雀士です。

かつてのバブル経済の時代には、歌舞伎町などの歓楽街には、東風戦を高レートで打たせる違法な店がけっこうあった。

当時の裏メンは、店に雇われていることを隠しているのが普通でした。

「マスター、ちょっと用事を思い出したから、これでいったん抜けるわ」

新しいお客さんが来ると、なるべく自然な形で卓を抜けて、店の外に出ていってしまうんです。

もちろん事情を知っているお客さんもいるんですが、知らないフリをするのが、そういう場所の作法というもの。

裏メンは、行きつけの喫茶店なので待機して、店からの連絡を待ちます。

完全自腹のむこうぶちに比べると、日当が貰えるぶん、収入は安定しているハズですが、それでも行き詰る裏メンは多かった。

喫茶店代を節約して、別の行きつけの雀荘で、麻雀を打たずに待機する人もいました。
当時は携帯電話が無かったので、電話連絡が取れる場所が必要だったんです。

私がかつて経営していた池袋の雀荘にも、他店の中年の裏メンが来てました。

私の店は安い東南戦だったんですが、良く負けていた人なので、高レートで勝てるとはとても思えませんでした。

「マスター、明日までタネ銭回してくれないか。あっちで負けがこんじゃって」

若白髪を書きながら泣きを入れます。

ウチの店もその後ツブれたくらいなので、人に貸す余裕はありません。

その人の実家はかなり金持ちだと聞いていたんですが、やがて店に寝泊まりするようになり、結局は失踪してしまいました。

後で聞いたところでは、どうやらハウスがわにカモられたようです。

自分が身分を隠しているように、対戦相手の本当の身分だって分からない。

当時の雀荘経営者やマンション麻雀の経営者は、雀ゴロやむこうぶち上がりもいて、強い打ち手がたくさんいました。

麻雀牌の手積み時代のイカサマを経験している人も多い。

全自動卓になっても、通しや拾いと呼ばれるイカサマは可能。

金持ちの遊び人をカモるのは、造作も無いことだったんでしょう。

 

雀ゴロは裏メンより
強くないと成り立たない

むこうぶちは博徒用語なので、昔から一般の雀荘で使われることはありませんでした。

また、博徒がわの視点による呼び方なので、本人みずからが名乗ることもありません。

やってることは同じようでも、一般の雀荘では、雀ゴロというあまり感じの良くない呼び方になってしまいます。

「麻雀を打って生活するゴロツキ・ならず者」というのがその語源。

別に麻雀を打ってるからと言って、ゴロツキなんてほとんどいないんですけどね。

雀士みずからがそう名乗るとは思えないので、これも胴元・雀荘などのハウスがわの視点に由来しているようです。

現在では、むこうぶちはもちろん、雀ゴロもかなり少なくなってきました。
以下その理由。

①当局の指導などで、稼ぎ場事自体が無くなった。
②低レート化で、ゲーム代が相対的に高くなってしまい、よほど勝率が高くないと食えない。
③情報格差、技術格差が少なくなってきた。

などが挙げられます。

トップ率30%のオバケのように強い人でも、一般的なフリー雀荘では、大きく勝ち越すのは至難の業です。

裏メン・打ち子としてある程度の時給やゲーム代バックがあれば、なんとかやっていける程度だと思います。

現在の私の店では、本走専門スタッフ(打ち子も)を雇ってますが、お金が続かなくて挫折する人もいます。

「親方、この時給からゲーム代を払って麻雀を打ってたら、とても食べて行けません」

と言われることもあります。

「普通の腕だと食べて行くのは無理だよ。それで生活できたら、みんな立ち番などしないで、本走スタッフになっちゃう」

でも、お客さんの中には、打ち子をしないで、しかも他のお客さんに嫌われないで、コンスタントに勝ってる人も、ごく僅かにいることも確かです。

 

単行本「カモネギ白書」のギャンブル用語辞典から、いくつか紹介します。

●回銭。持ち金がパンクした客に、親切な胴元が化してくれるお金。金利は一晩一割が相場。トイチ(十日で一割)よりもキツイ。翌朝は、客の自宅や会社や親せきの家にまで集金に来てくれる。この親切な人をツケウマという。

●鉄砲。お金を持たないで賭場に乗り込む無鉄砲な行為。命がいくつあっても足りない。

●かっぱぎ。親の総取り。転じて根こそぎ大勝ちすること。

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