テーマ2 セレブリティセキュリティ
黒沢はリードしたとき、一転して堅い打ち回しを見せることがある。
東3局
例えばこのシーン。「セレブ打法」と聞くと豪華なアガリに向かってまっしぐら!というイメージをお持ちの方もいるだろう。
しかし、リードした状況で真ん中の牌だらけのこの手牌。黒沢は前巡の打、この巡目の打と手牌をスリムに構え、隙の無いディフェンシブな打ち回しを見せた。トップ目からの不必要な失点を避けるのが狙いだろう。
東4局
親番が落ちた黒沢、
このまずまずの手牌から、
多井の打ったこの白を鳴かずにスルーした。
ここで黒沢が白を鳴かなかった理由は、親番多井の河にある。
この河は、多井の手が「字牌整理が終わって、数牌が余り出した」段階だと読める河だ。しかも役牌を全て切り出しているので、「役牌に頼らなくとも数牌で手を組める」とも読める。
つまりは、多井の手は数牌だらけであって、しかもリーチにくる可能性が十分にあるとの読みが効くのだ。もし黒沢がを鳴くと、その多井の現物が2枚減ってしまう。
また、朝倉(下の画像では多井の対面)も、
この時点でドラのを切ってきている。
トップ目の黒沢、両サイドからの攻撃に備えて、安易に手牌を狭めない手堅い打ち回しを見せた。
その後、黒沢の手も伸びてイーシャンテンに。しかし、多井からやはりリーチがかかる。
黒沢の手牌はこのような格好だ。
ここで、
茅森から2枚目のが出る。
が、これを黒沢はスルーした。
をポンしたときに出ていくことになるは、多井のリーチ宣言牌のスジの牌だ。しかし、カンチャンやシャンポンには当たりえるので全く安全な牌ではない。
また、をポンしたときに待ちとなるは多井の現物でもなんでもないのでアガれる可能性が高いとは言えない。
さらにポンした場合には、手の内が多井の危険牌だらけになる。そして黒沢はテンパイしている以上「押してアガりにいった方がマシ」という状態が続いてしまう。これも問題だ。自分は大トップ目、出来る限り放銃は避けたい。
ここは黒沢、をスルーする安全策をとった。結局この我慢が効いたこともあって、多井のリーチは不発に終わる。
を鳴かなかったときの黒沢は、
このように辛い表情をしていた。
「ポン」「チー」と声を出すのはそんなに難しいことではない。
一方、言葉を飲み込んで、こらえて、じっと耐えるのには辛さを伴う。
思えば、門前高打点を狙う「セレブ打法」も、ガードを固める「リードしてからの守備的な打ち回し」も、どちらも鳴くのを自重する戦法だ。
「セレブ打法」「お嬢」という華やかなイメージの黒沢だが、卓上では我慢の連続なのではないだろうか。
そして、だからこそ、苦労に苦労を重ねた黒沢のアガリはあんなにもキラキラと輝かしいのだろうか、ふとそんなことが心に浮かんだ。