多井がアガリを決めれば控え室の選手たちは喜び・・・
ハイタッチ。
「この麻雀マシンだけはマジで強いわ」
白鳥翔が感嘆の弁を漏らす。
しかし南3局には萩原が魚谷から連続して出アガリし、多井はこの点棒状況でオーラスを迎えた。ひとアガリすればトップが見える状況、控え室の選手たちの応援にも力が入るが・・・。
トップまでハネ満ツモ条件の魚谷が裏ドラ次第の5巡目リーチ。
さらに次巡、寿人もカン待ちリーチで応戦。
アガリを目指しつつ、絶対に放銃は避けたい多井。ギリギリまで粘ったが、15巡目で魚谷の現物であるを中抜き、2着もやむなしという覚悟を決めた。
しかし、現実は無情だった。16巡目、魚谷が高めのをツモアガリ。現時点でリーヅモイーペーコー赤、満貫止まりだが・・・
裏ドラのは、魚谷の大逆転勝利と共に、多井の3着落ちを告げた。
恐らくその瞬間、セガサミーフェニックスの控え室はきっと歓喜に包まれていたのだろう。一方で渋谷ABEMASの控え室には、膝から崩れ落ちる白鳥や松本吉弘らの姿があった。残酷なコントラストである。
「あんなことなら最後まで押しておけばよかった」
控え室に戻った多井はそう語っていた。しかしその押しは無謀と紙一重。危うい中でもしっかりとバランスを取ってこられたからこそ、多井は長いリーグでの戦いで好成績を残し続けてこられたのだと思う。そして、最善を尽くしてもなお残酷な結末が待ち受けているのも、麻雀というゲームである。
2人に、試合後の弁を聞いた。
「家に帰って早く見直したいですね。こっちだったほうがよかったとか、あるじゃないですか。ひとつ掛け違えみたいなのがあったときでも、こんなに痛い思いをすることってあまりないから。反省はしますけど、引きずりたくはないですね。
どうしてもの後悔は特にないんです。本当にやっちゃったとは思っていないから。でもこっちのほうが良かったんじゃないか、という思考はあるので、そこはまた、一人で判断できないところは仲間に聞いて、変えていこうと思います」
「いまいちでしたね。もっと押せば良かったです、3着になるくらいなら。あんなことになるとは思わなかったです。でも、まだ全然なので。ここで稼いでも、結局優勝しなければ意味がないですし、優勝するように。うちは本当に発展途上というか、伸び代が一番多いチームだと思っているので、僕がしっかりと彼らのバックアップをして、彼らの成長の手助けになれれば、どんどんこのチームは強くなると思います」
10/24の対局は、渋谷ABEMASにとって非常に苦い結果を突きつけられることとなった。ただ、長いシーズンの中には、必ずこういった日もある。
この日出番がなかった白鳥は、「自分が負けても他の人が返してくれる」と、日向を気遣う言葉をかけていた。痛みを受け入れながら、前へ。渋谷ABEMASは全員で支え合って、次なる戦いに臨む。
さいたま市在住のフリーライター・麻雀ファン。2023年10月より株式会社竹書房所属。東京・飯田橋にあるセット雀荘「麻雀ロン」のオーナーである梶本琢程氏(麻雀解説者・Mリーグ審判)との縁をきっかけに、2019年から麻雀関連原稿の執筆を開始。「キンマweb」「近代麻雀」ではMリーグや麻雀最強戦の観戦記、取材・インタビュー記事などを多数手掛けている。渋谷ABEMAS・多井隆晴選手「必勝!麻雀実戦対局問題集」「麻雀無敗の手筋」「無敵の麻雀」、TEAM雷電・黒沢咲選手・U-NEXT Piratesの4選手の書籍構成やMリーグ公式ガイドブックの執筆協力など、多岐にわたって活動中。