熱論!Mリーグ【Mon】
何度でも何度でも
不運に立ち向かう
「村上淳の打牌」
文・梶谷悠介【月曜担当ライター】2019年1月21日
いきなり私の話で恐縮だが、麻雀を覚えて20年が経つ。
その中の約2年間、ほとんど麻雀を打っていない時期というのが私にもあった。
麻雀は楽しかったが、ふと
「あれ、このゲームってある程度までいけば後は運で決まるゲームじゃね?」
と思ったとき、モチベーションが下がっていったのだ。
今思い返してみても赤面ものの浅はかな思い込みだったが、実力の向上というものを感じられなくなったとき、人は動機を失うのだと思う。
だとすれば、麻雀の面白さの一つは、実力を上げることができるゲームということが言える。これに気づけるかどうかが麻雀にハマる分岐点ではないか。
観戦ライターとして何を書くべきか、Mリーグの魅力、選手の魅力もいい。だが同時に麻雀の面白さを伝えることも責務だろう。
ならば選手の打牌を通じて、麻雀の実力とは?を綴っていきたいと思う。

というわけで今回はこのおじさんの打牌をクローズアップしたい。
第1回戦
起家 黒沢咲(雷電)
南家 二階堂亜樹 (風林火山)
西家 小林剛 (Pirates)
北家 村上淳 (ドリブンズ)
東1局0本場

開始早々、オタ風でドラのをポンするリーチ超人。
打として
バックに構える。苦しいが門前で進めたとしてもこれより高くアガりやすくなるわけではない。

を持ってきて何を切るか。
当然を切るのが一番手広いが、
①危険なを先に処理しておくこと
②場に見えていない役牌はと
、ここで
を切ってしまうと
はかなり止められてしまう。
以上を理由に打とした。

これに追いついたのが亜樹。待ちのピンフ赤2でリーチ。

直後村上もテンパイする。1巡早くを処理できた格好だ。

しかし最も歓迎しないおかえり。どうするか。
前巡に無筋のをスッと勝負した村上だが手が止まった。
ここで捨て牌を見てみよう。

通ってない筋を確認すると
、
、
、
だけである。
ここで亜樹のリーチを考える。
慎重な亜樹がドラポンの自分にぶつけて来る以上それなりに勝算のある手だろう。両面待ちの可能性は高い。また安手では勝負に来ないだろうから、赤を使っているだろう。となると、自分から見て5枚見えのは赤絡みを考慮するとかなり危険な牌だ。前巡
を通せたのは、亜樹が
を切る前でまだ通っていない筋が多く、赤絡みで当たることが少ないためだ。

うんうんと確認した村上は、現物のを切った。
もしかしたら視聴者の方はビタ止めに「すげー」と思われたかもしれないが、リーチの待ちがわかったから止めたわけではないというところに注意してほしい。
が当たりだったのはたまたまだ。あくまで自分の手の価値と、
を切り出すリスクを天秤にかけてリスクが上回った結果なのだ。凄いのは村上の押し引き判断なのである。

そして終盤にを止めた形で再テンパイを果たしテンパイ料をゲットする。
こうなったのもやはりたまたまだが、正確な押し引き判断がなければこのような結果になっていないだろう。
この手を8000の放銃とするか、1000点のテンパイ料収入とするかが麻雀の実力部分だというところに注目してほしい。
東3局2本場

をポンした親の小林、打
としてイーシャンテンとする。

直後の村上、小林の落としを見て手が間に合わないと判断。
を合わせてオリにまわる。
これも小林の手がテンパイしていると読んでいるわけではない。ただ自分の手がこのまま進んだとしても親に対してぶつけられる手になりそうにない。であれば早いテンパイが入っていたときのためにリスクを軽減する策を取った。
実力者は無駄な放銃をしない。一見して地味だが強者を強者たらしめている部分はこういうところが大きい。
東3局4本場

をポンしていた黒沢、
をチー打
とし
待ちのテンパイを入れる。

それを受けた上家の村上は打とした。
ぱっと見、両面を固定して手を進めたように見えるが

を続けざまに打って黒沢に対してオリている。
黒沢は2つ仕掛けての対子落とし、手が早いのは間違いない。
のワンチャンスで
は切ったものの次にオリる選択をした…
というのは実は少し違う。はじめに切ったは一応手の形を維持したが、かなりオリ気味の一打だ。
ここでもう一度黒沢の仕掛けを考えてみよう。
チーをする前、黒沢の手は
○○△△□□□
(ポン)
だったはずだ。テンパイが近いとすれば□□□で1面子が完成し、残りは雀頭を含めたターツが2つになる。
もしもが両面で当たるのなら、○○は
ということになるが
△△□□□
(ポン)
ここからは打とせず打
としてシャボのテンパイに取るのが普通だろう。
もちろん△が場に見えていてシャボのテンパイに取れなかったなどの例外はあるだろうが、が両面で当たる可能性はかなり低いとみていい。また○○が
の対子というのも黒沢の早い
切りからみてなさそうである。
故に通せたなのだ。何気ない一打に実はかなり精巧な読みが加えられている。
南3局0本場

ここまで耐えてきた村上だが、アガりがなくラス目で南3局を迎えることとなる。
下家の黒沢は明らかに筒子で染めている捨て牌になっているが、村上の選んだのは。黒沢の染めている牌は将来的に待ちになっても出にくい。ラス目につき失点を抑えるよりアガりを優先する状況で、筒子以外で待つ作戦だ。ここまで良い守備を見せてきた村上が攻めに転じた瞬間だった。

カンのターツができた後もドラの
を残して
を切る!

をポンした黒沢は打
としイーシャンテン。

それを受けて村上。待望のドラが重なったところで何を切るか。

「パンッ」と打ち出されたのは。
を残してもアガり目は薄い。満貫の見える手で思い切ったターツ選択だ。カン
で待てれば黒沢だけではなく脇の2人からも溢れるかもしれない。

黒沢からがポンできた村上、
も押す。狙い通りのカン
待ち。
残しが活きた。

テンパイを入れていた黒沢がを掴んでしまう。これは止まらない。

この満貫のアガりで3着に浮上し、オーラスの親を迎えることとなった。
残しからの筒子連打が捨て牌に残る。
『優秀なターツを残すこと』が実力の重要な要素の一つであることがお分かり頂けただろうか。

惜しくもオーラスは流局し3着で終わってしまったが、攻守に渡ってプロの一打を見せてくれた村上だった。

この誰よりも深々とお辞儀するおじさんは今日も麻雀と真摯に向かい合っている。

結果についてはちょっと納得がいかなかったようだが。
1位:小林(Pirates)+53.3
2位:亜樹(風林火山)+11.3
3位:村上(ドリブンズ)▲17.5
4位:黒沢(雷電)▲47.1
梶谷悠介
最高位戦日本プ麻雀協会所属。HNツケマイとして天鳳やブログで一時話題となる。去年パパと麻雀プロに同時なった男。最高位とMリーガーを目指して連続昇級中。
◆大和証券Mリーグ2018 7チームが各80試合を行い、上位4チームがプレーオフに進出するリーグ戦。開幕は10月で翌年3月に優勝チームが決定する。優勝賞金は5000万円。ルールは一発・裏ドラあり、赤あり(各種1枚ずつ)。また時間短縮のために、全自動卓による自動配牌が採用される。
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