「疫病神じゃねぇか・・・」東川亮の渋谷ABEMAS 取材後記
文・東川亮
この本が生まれたきっかけは2019年夏、渋谷ABEMAS・多井隆晴選手(以下多井さん)に取材をした際の、多井さんのひと言でした。
「渋谷ABEMASの控え室の会話をまとめたら、それだけで一冊の本になりますよ!」
取材の帰り道、ゆりかもめの中で近代麻雀編集部・金本さんから「東川さん、多井さんの本の仕事やります?」との打診。
願ってもない機会、二つ返事でOKしたことを覚えています。
こうして、僕はMリーグ2019の木曜担当観戦記者としてだけではなく、渋谷ABEMASを取材して多井さんの本を作る、という任務を負って、今シーズンに臨むことになりました。
シーズン中は渋谷ABEMASの控え室へ通っていたのですが、現場の雰囲気はやはり独特のものがありましたね。
試合前には手積みの麻雀で調整を行い、1局ごとに牌譜を検証。
試合中は仲間を応援しつつ、相手チームの打牌選択も含め、細かく意見交換をしています。
そして戻ってくれば、ポイントとなった場面での反省会。
僕はそれらの会話を傍らで聞きつつ、本のネタになりそうな場面をピックアップしていたのですが、ついていくことすら精いっぱい、聞いているだけで圧倒されているような気分になることもしばしばありました。
自分がいると勝てない?
さて、この本を作るにあたり、僕の中で非常に心苦しく、非常に印象的だったトピックスがあります。
こちらは、僕が取材をした序盤の5節と、その日の渋谷ABEMASの成績です(1節につき2試合)。
9/30
白鳥 4着 -69.0
多井 3着 -20.6
10/24
日向 4着 -72.2
多井 3着 -14.0
10/29
多井 3着 -13.3
日向 3着 -32.5
11/11
松本 4着 -52.9
松本 3着 -17.3
11/19
松本 4着 -48.8
多井 4着 -58.0
5節10試合 着順 0-0-5-5 -398.6
ご覧の通り、シーズン序盤に自分が取材に行った日の渋谷ABEMASは、負けに負けました。
特に10/29の第1回戦は、今シーズンのハイライトの一つである「赤坂ドリブンズ・丸山奏子選手のデビュー戦」。
丸山選手がをツモったときの控え室の空気、壁越しに響いてくるドリブンズの絶叫。
麻雀界が大盛り上がりした瞬間ですが、渋谷ABEMASの控え室だけはそこから孤立した空間だったように感じました。
このように全く勝てない日々が続くと、どうしてもよからぬ考えが頭をよぎるものです。
「疫病神じゃねぇか・・・」
「これが知れたら、渋谷ABEMASファンに何を言われるものか・・・」
もちろん、自分に対象の運気を下げる霊的な能力のようなものは備わっていません。
「自分のせいでこの結果になっている」などと思い上がっていたつもりはないですし、それは選手のみなさんも一緒だと思います。
ただ、Mリーガーは麻雀界の中でもトップクラスの勝負師ぞろい。
中にはゲンやジンクスを気にする方もいるでしょう。
このことについて選手のみなさんから何かを言われたことはないのですが、もしかしたら何か思うところはあったのかもしれません。
チームのために取材を自重した方がいいのかもしれないという思いと、仕事を全うしなければいけないという思い。
そのはざまで、いつしか小さな葛藤が生まれていました。