「仲間が勇気付く
麻雀を打つ」
逆境の中、瀬戸熊直樹は
一歩前に踏み出した──
文・江崎しんのすけ【月曜担当ライター】2023年5月15日
第1試合
東家:二階堂瑠美(EX風林火山)
南家:日向藍子(渋谷ABEMAS)
西家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家:瀬戸熊直樹(TEAM雷電)
「ロン」
東1局、開始5分でロンの発声が響き渡った。
声の主は日向。
手をソーズのチンイツに決め、瞬く間にテンパイを入れた。待ちは、でどれでアガっても12,000点の大物手。
この手に飛び込んだのは瀬戸熊だった。
開けられた手を、数秒間じっと見る。
瀬戸熊の目には、動揺が滲み出ていた。
雷電のチームランキングは現在3位。
首位のABEMASとは135.1pt差。
残り試合数を考えれば優勝の可能性は大いにあり、この試合もトップが必須という訳ではない。
ただ1点だけ、ABEMASよりも下の順位で終わることは避けたい。ABEMASがトップを取る、もしくは瀬戸熊がラスを引くと必要なトップ回数が増え、今後の試合展開が厳しくなってしまう。
ABEMASより上の順位で終わる。
それが今日の瀬戸熊のテーマだった。
それが蓋を開けてみれば、開局早々に日向へ12,000点の放銃。
日向の仕掛けはまだソーズが1枚も余っておらず、瀬戸熊の手もイーシャンテンのため放銃自体は致し方無い。
それでも、この放銃は余りにも痛い。
対して、日向はこのアガりでかなり自由な立場となった。
雷電・KONAMIよりも上の着順で終われば問題ないし、トップが取れれば2チームの条件をより厳しくすることができる。
東2局、日向の親番が始まる。
2巡目、日向が切ったに声がかかった。
「ポン」
今度の声の主は瀬戸熊だった。
西家の瀬戸熊は、1枚目のをポンしてイーシャンテンにとる。
瀬戸熊は副露率が低い。Mリーグの平均副露率が18%程度に対して、瀬戸熊は12%程度だ。鳴いた場合も打点が伴っている本手であることが多く、今回のような躱し手はシーズンを通して殆どない。
普段なら取らない選択をした瀬戸熊。
この選択について、チームの公式Youtubeチャンネルにてこう語っていた。
「これが終わってもあと7戦あるので、仲間を信じてとにかくみんなが勇気づくような麻雀を打とうと思いました」
「自分の仕事が何かと言われたら、日向さんを走らせないことだと思ったので、この親を終わらせることが目的になりました。(1枚目の西から)声が出たのは良かったですね」
動画:【控え室トーク】Mリーグ2022-23 5/15(月) TEAM雷電FINAL5日目
動揺の色を見せた瀬戸熊。
しかし、ここまで逆境をともに乗り越えてきたチームメイトへの信頼は決して揺らぐことはない。
冷静さを保ち、即座にゲームプランを修正する。
この局は瀬戸熊の思惑通り、1,000点のアガリで局を進めることができた。
親番だった日向の手もドラ2・赤の高打点が見込める配牌だったので、瀬戸熊の選択次第では違った未来もあったのかもしれない。