胴元が確実に
儲かるとは限らない
●ギャンブルで勝つためには、ハウスとゴト師の視点が役立つ。
●肝心のギャンブラーの主張は、意外と的外れなことが多い。
「では、ハウスをやれば確実儲かるのか?」
ギャンブルファンとっては、ハウスがどれくらい儲かっているのか、ちょっと気になるところです。
ハウスと言えば、通常はカジノのことですが、ぼくが真っ先に連想するのは競馬のノミ屋。
昔の麻雀仲間に、羽振りのいい競馬のノミ屋がいたからです。
元もとは不動産屋の社長だっんですが、会社の倒産と同時にノミ屋を開業。
不動産屋時代の知り合いや、麻雀仲間を客に取り込んだようです。
「不動産屋より楽だな。早くこっちをやれば良かった」
週末の中央競馬だけ受けていたので、平日は高レートの麻雀ざんまい。
チョビ髭を撫でながら、常に大物手を狙ってました。
営業拠点は雀荘と近くのマンションの一室。
「山ちゃん、最後のサシウマ分が短いんで(金が足りない)、事務所まで一緒に取りに来てくれないか」
「この次でいいですよ」
「いや、たとえ一日でも学生の風下にゃあ立てねえよ」
マンションの鉄製のドアから奥に続く廊下の脇には、美術書や百科事典や文学全集など、絶対に読まなさそうな本がぎっしり詰まった大型の本棚が置いてあり、身体を斜めにしないと通れません。
「警察なんかに踏みこまれた時に、時間稼ぎができる」
警察「なんか」という所が、ちょっと怖かったです。
驚いたことにトイレに電話を引き込んで、そこで注文を受け付けていました。
「いつでも証拠のメモは流せるようにしてある」
小さな規模のノミ屋の場合は、高額配当のリスクの高い馬券は、その一部を他のノミ屋に回す、相互扶助の仕組みがある。
ところが、元もと競馬に自信があったので、
「こんなの来るワケないだろ」
とリスク分散をせずに全部自分で呑んでいました。
首尾良く稼ぎが増えたこともあり、さらに勝負に出た。
他のノミ屋からの、高リスクの注文をすべて受けたんです。
どっか~ん!
やがて、高配当の注文が次々と的中、大赤字になってしまったのだ。
この時はなんとか持ちこたえたんですが、配当遅れなどで評判が低下して上得意客が激減。
ノミ屋の収入減を埋め合わせるべく、今度は平日開催の地方競馬で自らが勝負。
いつの間にか、ノミ屋経営者から、ただのノミ屋の利用客に戻ってしい、けっきょく破産してしまいました。
当時のぼくの麻雀の師匠は、よく次のように言ってました。
「ギャンブルは、麻雀と週末の中央競馬くらいにしておいたほうがいい。平日でもできる地方競馬や競輪は身を滅ぼす」
ノミ屋は一見簡単に儲かりそうに見えますが、実際には客集めがたいへんだと聞きます。
「ハズレは1割バック、高配当は100倍制限」
などがノミ屋の基本ですが、客集めのためにバックを増やしたり、配当の上限を上げたりとか。
現在のように高配当が魅力の3連単などは、100倍制限だと当然客は付かないし。
それにも増してたいへんなのは、実は集金業務です。
「逃げるヤツを追い込むのは楽なほう。買ってない馬券を買ったと言って、逆に事務所に乗り込んでくるヤツもいる」
ハウスをやれば楽に儲かる、とは言えそうにありません。
コーチ屋と地見屋は
確実に儲かっていた
その当時、麻雀仲間に競輪のノミ屋もいました。
ある日、高田馬場での徹夜麻雀が終わった後に、ノッポとデブのノミ屋に連れられて西武園まで出かけました。
まず西武線に乗るんですが、ノミ屋たちは切符を買わない。
当時は駅員さんが人力で切符をチェックしていた時代。
「山ちゃんたちは俺の後に黙ってついて来てくれ」
駅員が先頭のノッポに切符を要求すると
「後ろだよバカヤロウ!」
と、親指で列の後方を示したまま通過。
で、最後尾のデブが怒鳴ります。
「前だよバカヤロウ!」
当時は競輪場の特別観覧席に出入りするために手の平にハンコを押して貰ってたんですが、ノミ屋はハンコを自前で持っていました。
「はい、みんなに缶コーヒー」