フェニックスのpt状況に余裕がある上、もともと茅森はプレッシャーを感じるタイプではない。しかし、ダルマのように赤い村上と、あまりに対照的で面白い構図だ。
さて、茅森のリーチ判断を見て「いくら余裕があるとはいえ、やりすぎだ」と思った方も多いかもしれない。解説の朝倉も驚いていた。
他にこの巡目でリーチを打つのは、寿人くらいしか思いつかない。
しかし、私はリーチでいいと思っている。
ダマで拾えそうな高打点の手をリーチするなんて、上下にブレやすく安定しない選択だ!と思われがちだが、逆に言うと多少アガリ率は落ちようとも、アガった時に決定打となりうるのならば、トップ率が高まり、結果的にトータルではむしろ安定するのでは…と感じている。
村上はここで茅森リーチに備えていた、虎の子のを河に放流する。
このがなかったら、村上に安全牌はなく、ワンチャンスのを選んでいただろう。
村上自身もそう言っていた。
1枚残したのが活きて、ギリギリ
流局にもつれ込んだ。
(ほんとに当たるのか…!)
開けられた茅森の手牌をみて、村上は肝を冷やすとともに、良い感触を得たという。
東2局2本場
次に村上の手が止まったのは
このだった。多井の仕掛けは、マンズのホンイツもありそうで切りづらい。
ここで一旦を切る人がほとんどだと思う。
しかし村上はやはり
場を眺め、考える。一打の妥協も許さない。
だって、麻雀にできることは思考を突き詰めることだけだから。
だって、俺にできることは強くなる努力を惜しまないことだけだから。
そして俺は20年間、この姿勢を崩したことはないから
村上がを放ったのは20秒後のことだった。
もう一度牌図を見てみよう。
(チー打)
多井の仕掛けをホンイツと断定することはできない。いや、むしろホンイツだとしたらブロック構成に違和感を覚える。残っている字牌がしかなく、マンズの真ん中とだけで3ブロックある形が想像しづらいのだ。チーのあとに出てきた周りにターツがありそうな雰囲気ではある。
さらに言うと、ここのところの多井は「仕掛けのレンジを増やしたい」と言っていた。つまり安手の可能性も十分にある。
とはいえ、が危険であることには変わりない。
その一方で、は全員の安全牌だ。特にたった今、多井の危険牌の1つであるを打ってきた下家・茅森に対して、は残しておきたい。そこで全員に切れないを今のうちに切っておいて、後々の安全を買おうという判断だ。
おそらく村上が考えたのは上記の内容だと思う。
しかしそれにしても、ここまで思考を詰めることができるのか。
私なら(お、そこそこいい手…ふむ、ツモか。多井さんに切れないな。とりあえずを打っておいて…)ってなりそうだ。
この局は予定通り茅森からリーチが入って、多井が
500-1000のツモ。何もかも村上の読みどおりだ。今のうちにリスクを負うか、後の大きなリスクを軽減するか…。困る前に先に対応する村上の先見性、そして一打に対する執念を垣間見た一局だった。
東4局1本場。
またしても村上の手が止まる。
今度はコチラの手牌。今回は茅森がドラをポンしている。
牌図を見てみよう。
なんというか、毎度のことながら、取り敢えず完全安全牌のを切ればいいだけの場面である。
しかし村上に「取り敢えず」なんて言葉はない。
を切ってテンパイしたらを切るのか?
を切って他家からリーチが入ったら、ドラポンとリーチに挟まれて凌げるのか?
ドラを切ってきた多井からいつリーチが飛んできてもおかしくないぞ?
おそらく、VS茅森だけだったら、テンパイでを打つくらいは見合うのだと思う。
またを切った後にが通ることだってあるだろう。
しかし、村上は決して甘えない。
はチーされるだけでも嫌だし、他家のリーチに対しての守備力も必要だ。
村上は熟慮の末…
丁寧に丁寧にイーシャンテンまで育ててきた手牌を崩した。
あなたは完全安牌を切ればイーシャンテンを維持できるのに、先にメンツを中抜きしてオリたことはあるだろうか?
少なくとも自分の記憶にはない。