ついに長編突入!
“百恵ちゃん、地獄の
期間工時代編”
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.26
百恵ちゃん、車を買う
3日間の受け入れ教育を経て百恵ちゃんとやまちはハイブリッド自動車のエンジンの製造ラインに部署に配属された。正確にいうとミッションというものらしいが約3年勤めた百恵ちゃんでも車の中でどんな役割を果たしているのか全く理解できなかった。そもそも百恵ちゃんは自動車学校を中退してしまうほど車に対して全く興味がなかったのだ。
百恵ちゃん達が配属されたのは昼夜の二交代制の部署だった。A直、B直に別れ1週間ごとに昼勤と夜勤を交代で行うというシステムだった。
百恵ちゃんはこの部署で様々な困難に立ち向かうこととなる。ゆとり教育でのびのび育っていた根性を徹底的に叩き直されたのだ。
百恵ちゃんが働いていた工場は約3000人が在籍する大きな工場だった。
その中でも期間工は700人を越えていて車を持たない期間工の為に送迎バスが出ていた。当時百恵ちゃんも車を持っていなかったため、その送迎バスを利用していた。
しかし自宅から一番近い停留所は4キロ離れてた坂道の多い道の末にあった。
徒歩はかなり厳しいと考え、仕方なくホームセンターにあった一番安い自転車を購入した。学生の時に自転車を漕ぐ姿が気持ち悪いと言われて以来、自転車は避けてきたのだが苦渋の決断だった。
慣れない体力仕事をこなしながら往復8キロを自転車で移動するも勤務4日目の朝、眠たい目をこすりながら自転車を漕いでいると自宅から1キロ程進んだあたりで格安自転車のタイヤがパンクした。
パンクした自転車がこんなに重たい物だとは知らなかった。しかし、一旦家に戻ってタクシーを呼ぶ時間はなかった。
『進むも地獄、退くも地獄』
という言葉が頭を過った。どっちも地獄ならばもう会社に行くこと自体をやめてしまおうかとも思った。
だが百恵ちゃんは元は体育会系の人間だ。気合いで、この困難を乗り越えようと思った。
百恵ちゃんは走った。
幾多の坂道をただの粗大ゴミと化した自転車を押しながら走った。
「クルマカウ」
「ゼッタイクルマカウ」
と心の中で叫びながら自転車を押し続けた。
停留所に着く頃にはバスに乗ることは諦めていたが、百恵ちゃんは満足していた。いつもならその場で自転車を乗り捨て家に帰り、仮病を使って休むところを完走できたのだ。百恵ちゃんにとっては
『たいへんよくできました』
だったのだ。
しかし、幸運にもその日たまたま遅れていたバスに乗ることができた。
ホッとしたのも束の間、会社に着くと考えられない程のキツい体力仕事が待っていた。仕事をしながら
「こんなツライなら無理せず休んでおけば良かった」
と百恵ちゃんは思った。
その帰りに車屋さんに行き、車を買った。ヴィッツという車だったが10年落ちであるにも関わらず総走行距離が3万キロで前の持ち主もかなり丁寧に扱っていた様でとてもいい車だった。
しかも15万円という破格だった。寒冷地には不可欠のスターターも着いていた。スターターとは遠隔操作でエンジンをかけることができる機能で、家や会社にいながらエンジンをかけて車を暖めておけるという優れものなのだ。
しかしそんなヴィッツにも不満点がひとつだけあった。
車体の色がピンク色だったのである。
偏見の塊である百恵ちゃんは
「ピンク色の車に乗る様な女にはなりたくない」
と思っていたが15万円の魅力には勝てず、仕方なく購入することにした。
ニコニコ現金払い派の百恵ちゃんのはじめてのローンだった。
諸経費込みで20数万円だったのだがローンについてなど考えたこともなかった百恵ちゃんは適当に3年払いにした。愚かな選択だった。まるで利息を払う為に生まれてきた様なものだ。
会社の先輩に笑われ、ムカついた百恵ちゃんは車のローンを一括で返すための貯金を始めた。
愚かな行動ではあるが百恵ちゃんのアホな行動も日本経済は回す手助けになっているに違いない。そう思わなきゃやってられないのである。
かくして車をゲットし、レベルアップした百恵ちゃんはまた次の困難に立ち向かうこととなる。
次回は4月23日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!