初めての沖縄はなんだかお腹が痛くて甘酸っぱい…憧れの沖縄旅行編【百恵ちゃんのクズコラム】VOL.34

【百恵ちゃんのクズコラム】

VOL.34

仮病

学校を休んで沖縄を巡る旅はさぞ楽しいだろうと思っていたがひとつだけめんどくさいな、と思っていたスケジュールがあった。博物館である。

博物館が好きじゃない百恵ちゃんはあまりのつまらなさに仮病を使って休むことにした。

秘儀『なんかお腹痛い』の出番である。

この頃の百恵ちゃんはこの方法で何度も学校を休んでいた。

「牧場物語」にハマった時にはこの秘儀を連発して幾多の休みを獲得し、お父さんの牧場からウシやらヒツジやらを片っ端から盗みまくっていた。牧場を完成させるために仮病を極めることだけを毎日考えていた。

仮病のポイントは痛がりすぎると病院送りにさせられるのでほどよく弱ったフリをすることだ。

幸いお母さんはめんどくさがりなため、無理に学校へ行けと説得されることはほとんどなかったので割りかしスムーズに休めていた。

ただ仮病を多用しまくっていたため本当に体調が悪い時にでも放置されるようになってしまった。
ある日、学校から帰ってきた当時中学生のお姉ちゃんが高熱を出して一人もがき苦しんでいる百恵ちゃんを見つけ、お母さんのいるパチンコ屋に乗り込んでお母さんの車をボコボコにした事件も起きてしまった。

そんな仮病を常習している百恵ちゃんなので今回も上手くいくだろうと思っていたが、引率の先生は思ったよりも重大に捉えたのか、はたまた責任感からか病院送りにされかけ、かなり焦った。

「いつも痛くなるけど寝てたら治るんです」

という微妙な言い訳でなんとかバスで寝てる権利を勝ち取った。

しかし引率のおじさんは一応お母さんに連絡を入れたようで北海道に帰ってくるとお母さんに

「なんか胸騒ぎしたんだよねー!体調悪くなってんでかーって思ったさー。やっぱりお母さんの勘は当たるんだよねぇ。超能力だと思う」

と言われた。今でもたまにその話をされるのだが、実は博物館がつまらなくて仮病使ったとは言えず、未だにお母さんは自分には超能力があると信じている。

博物館チャレンジを無事にパスし体力を溜め込んだ百恵ちゃんは2日間のホームステイ期間に入った。

ホームステイ先は前回北海道へやってきた児童の家だった。
前回来た人数より今回沖縄へきた児童の数が少なかったため、百恵ちゃんは二家族の家にホームステイすることになった。

百恵ちゃんを受け入れたのは仲良しの女の子二人の家だった。

楽しく過ごした。はずだった。

最終日の夜、みんなでキャンプファイヤーをしながらホームステイ先の家族とお別れ会があった。他の子たちはみんな泣いていたのだが百恵ちゃんは一切泣かなかった。

お別れ会に来ていた沖縄のおじさんの白髪まじりの大量のそれも物凄い長い耳毛に気を取られてしまい、全く話が入ってこなかったのだ。あんなに耳から毛を出している人に出会うのは後にも先にもこの時だけだろう。
沖縄で出会った人々の顔はもう思い出せないがあのおじいさんの顔だけは覚えている。それほどの耳毛だったのだ。

最後の最後に百恵ちゃんの沖縄の思い出のほとんどはおじいさんの耳毛に書き換えられてしまった。

そして北海道に帰り、しばらくするとホームステイ先だった女の子の片方から一通のハガキが来た。

「せっかく沖縄に来てくれたのに○○ちゃんとばっかり仲良くしてごめんなさい」

とだけ書いてあった。

百恵ちゃんは全く気付いていなかったが仲間に入れてもらえてなかった様だった。確かに思い返せば沖縄のお母さんとばっかり遊んでいた気がする。バナナボートに乗ったのも沖縄お母さんと一緒だった。

仲間はずれにされていたことに全く気付いていなかったのでこの時初めて百恵ちゃんは傷付いた。

気付いていなかったんだからわざわざ謝罪の手紙など欲しくなかった…と思っていると間をあけてもう一人の女の子からも手紙が来た。同じ内容だった。

百恵ちゃんは無駄に二度傷ついた。

こうして百恵ちゃんの初めての沖縄旅行は甘酸っぱい記憶と耳毛のおじいさんとともに幕を閉じた。

 

次回は6月18日(木)午前8時更新予定‼︎

【田渕家登場人物紹介】

父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。

・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。

・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。

・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。

・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。

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