Mリーグ名勝負数え歌認定!“多井隆晴vs鈴木たろう”執念のめくりあい【Mリーグ2020観戦記10/12】担当記者:山﨑和也

多井の手はこちら。安全牌がないうえに当たり牌のが浮いている。牌の入り方によっては出してしまいかねない。

しかしそのを重ねて打切りリーチ。いやはや勢いがある。それでもカンチャンのドラ待ちということもあり、多井もそこまで自信があったわけではないだろう。絶対にたろうには負けないという気合がリーチをかけさせたのか。

多井といえば鉄壁の守備力が評価されるが、筆者はリミッターが外れてがむしゃらに追いすがる多井の姿も好きである。この迫力ある親の追っかけリーチが入っては和久津も高宮も、うかつに入り込めない。

結果は流局となった。多井の親は簡単に終わらない。たろうも嫌だったことだろう。2巡目で待ちがアガれなかったのは運が悪かった。

南1局2本場

多井はまたもカン待ちのリーチに踏み切った。自身がよく発する「親のリーチは魔法の言葉」である。この段階で先制リーチを打たれると周りは苦しい。の対子落としを見せているのがミソで、普通ならば両面待ちが濃厚に見える。

結果はまたも流局。多井としてはしてやったりだ。

南1局3本場も多井が粘る。

意地を見せたい和久津はを暗槓してから、絶好の待ちリーチ。打点はないが、待ちがよいため、多井の親もこれまでに思えた。

この時点で多井は十分な手格好ながらも、アガりまでにはいくつか危険を冒す必要がある。

このを持ってきて多井の手が止まった。時間を使って打とする。自身の手にが3枚あるので待ちには当たりにくいとはいえ、無筋はやはりドキッとする。せっかくのトップを放銃という形で手放したくないはずである。

たろうも手を止めた。を切ればテンパイで、自体は和久津の現物である。瀬戸熊プロも「テンパイは取るんですけど」と話す。リーチかどうかを迷っているのか、それとも多井の切りに何か違和感を覚えたのだろうか。

じっくりと時間をかけてたろうはテンパイを取らず、をツモ切った。は多井の手に3枚あって薄いということを読んだのかもしれない。事実山にはもうなかった。我々視聴者と同じく神視点でないとこの判断はできない。地味ながら筆者がうなった一打だった。リーチをしていたら悲惨な目に遭っていただろう。

多井のもとに今度はまったく通っていないがきた。筒子はかなり危ないので、前巡に通ったを合わせてオリたくなるところでもある。

静かに押していった。テンパイや南1局のような高打点ならわかるが、この判断には親への、そしてトップへの強い思いが見て取れた。

和久津はなかなかツモれず、そうしているうちに多井に絶好のが埋まった。力強くを切ってリーチ。待ちの5面待ちである。

そしてこのハイテイツモ。奇しくも和久津の欲しかったを2枚手にしてのアガりとなった。フェニックスファンの方は相当悔しかったのではないかと心中察する。フラットな目線で見ていた筆者も、多井のこの強さには乾いた笑いが出てしまった。

4000は4300オールのリーチ棒4本回収で63000点を超えた。神がかった勝ちっぷりである。

南1局4本場

多井はまたもリーチをかけて連荘を狙ったが、ここは高宮が食い止めた。満貫のアガりで和久津との距離を離す。

引き負けたあとの多井は、とても6万点を持っているほどの余裕が感じられなかったが、後味の悪さがあったのかもしれない。事実、オーラスであの男が襲いかかる。

南4局

たろうの親番だ。かなりの好配牌である。もう高宮との差は跳満ツモでも足りない状況なので、思いっきり多井の背中を追うことができる。

ドラも引いてさらに打点アップ。

いや~恐ろしい。もう手牌の中で既に射程圏内である。Mリーグはそう簡単に終わらない。

ピンチを迎えている多井。ペン待ちで一足先にテンパイが入ったが、たろうとの手牌を比べてみるとどうも頼りない。ここはリーチをせず。仮にしたとしても、たろうは関係なく押してくるので、威嚇の効果も薄いのだ。

さあついにきた。ゼウスのリーチだ。待ちは。あまりにも強すぎる。

 

そういえば多井、先日の麻雀最強戦2020「最強『M』トーナメント」で大量リードから最後、二階堂亜樹にまくられてトップを逃していた。あの光景を思い出す。今度は踏みとどまれるか。上の写真だと、ゼウスに怯えている子羊にも見える。

を切れば待ちのテンパイに取れるが、あいにくは6巡目に切っていてフリテンである。それでも立ち向かう選択肢もあったが、ここは現物のを切った。出アガりができないのであれば、押す価値もないと見たか。

このあと和久津もリーチで立ち向かったが、ここはたろうがしっかり高めをツモりあげた。6000オール。多井もこの結果は受け入れていただろうが「いや高いよ」という心境だったのではないだろうか。

なんとたろうが再逆転。「気は済んだか?」と何だか神々しい声が聞こえるようではないか。

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