Mリーグ名勝負数え歌認定!
“多井隆晴vs鈴木たろう”
執念のめくりあい
文・山﨑和也【月曜担当ライター】2020年10月12日
将棋界では最高峰のタイトル戦である竜王戦が開幕している。豊島将之竜王対羽生善治九段という注目の対決だ。第1局は大乱戦を豊島竜王が制す。濃密な将棋であった。そこで思ったのだが、ハイレベル同士が競り合う姿は、どの競技であれ心が動かされる。

2戦目の顔触れはこちら。4人ともMリーグファンならおなじみの個性の強い打ち手が揃った。
第2試合
南家:和久津晶(セガサミーフェニックス)
西家:高宮まり(KONAMI麻雀格闘倶楽部)

東1局を見ていこう。

まず驚異的な手順を見せたのは高宮だった。初手のはいいとして、この2打目で何を切るか。高宮は
を切った。思わずへーといいたくなる一着だが、高宮にはひとつの完成形が見えていた。

裏目になったをツモ切り、
もポイっ。これでもうわかった方が多いだろう。

そう、純チャン三色を狙っていた。打として見事テンパイ。ここはリーチをかけずに藤崎の技を使った。まだ警戒されない巡目に思えるので、高宮が一本取ったかに見える。

たろうが当たり牌のを掴んだ。たろうの手はイーシャンテンで、
を雀頭にする構想ならばこの
はツモ切ってしまってもおかしくない。

しかしここはキープ。神にはなんでもお見通しと言わんばかりに、高宮のチャンスを封じた。確かにのあとに
を切るのは手順としてやや不自然で、
の周辺が待ちになっている可能性が高いのである。

このときうっすらとゼウスの降臨を予感させるものを感じた。この判断に、解説の瀬戸熊直樹プロと実況の小林未沙さんも思わず「お~」と声を上げる。

高宮の当たり牌を止めながらテンパイ。打として
待ちのリーチに踏み切った。

そこに親の多井も参戦。先程のたろうのをカンチャンでチーをしており、鳴いてはいるものの5800の打点を持っている。上図から打
としたが、少し力が入っていた。

結果はたろうの勝ち。一発で裏も乗り、3000-6000のアガりで大きくリードを奪う。

面白くないのは多井だ。めくり合い勝負にもならず、妙に高い親被りを喫してしまっている。これで火が着いたようだ。

東2局。神に対抗できるのは人類最強の俺だと、最速で対々和・の5200を和久津から出アガる。和久津はこの失点を悔やんでおり、以降はうまく歯車が噛み合わなかった。
南1局に移る。

たろうがリードを広げ、このまま終わるかと思われたが、多井がみすみす許すわけがなかった。親番になってこの配牌である。ドラ2つにもあって、絶対に落としたくないチャンス手だ。

ドラが暗刻になった。「これでもう一生オリません」と心の中で言っていたに違いない。

しかし先にテンパイが入ったのは高宮だった。打で
待ちの先制リーチ。多井を止めてトップ争いに加わりたいところ。

多井はまだまだテンパイまで時間がかかる状況だったが、無筋のを楽々プッシュ。

続いてを引いてブレーキが完全に取り外された。手の内で跳満が見える極上の手格好に。
を現物のごとく切って両面2つのイーシャンテンに取る。もはや高宮のリーチの声は聞こえていなかったのかもしれない。


と切り飛ばし、満を持して
待ちの追っかけリーチ。

やばいと見たか、たろうがチーをして一発を消す。この神のイタズラで、高宮が掴むはずのをたろうが吸収に成功した。

多井もこの表情。ここだけは絶対に逃しちゃいけないと苦しげだ。バチバチと火花が散っている。

それでも、山にあと1枚あったを引き入れて強烈な6000オール。手牌を倒してからも多井はまだ苦しげだった。全身全霊で念を込めていたようだ。
南1局1本場。

先程のアガりでトップは多井に。反撃のたろうがわずか2巡目で待ちの先制リーチ。