地獄の門番・前原雄大の
目を潤ませたその闘牌は
“悔しがる権利がない”
麻雀だったのか⁉︎
文・渡邊浩史郎【金曜担当ライター】2020年11月13日
「大勢の人が見てくださっている中で、どうしようもない麻雀を打ってしまった」
試合後のインタビューで、その選手はそう口にした。
KONAMI麻雀格闘倶楽部、前原雄大その人である。
「悔しがる権利がない麻雀だった」
「本当にすみませんでした」
前原は続けてそう口にし、目を潤ませ、頭を下げた。
1回戦
西家 前原雄大(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
北家 小林剛(U-NEXTパイレーツ)
【東2局】、親の勝又のリーチを受けて、直後に自身もメンタンピン赤の勝負手でドラ発を勝負。
リーチ時こそ待ちの枚数はほとんど変わらなかったものの……
勝又の当たり牌を掴んでしまい、12000点の放銃。
【東4局】、自風のをカンしてホンイツ風の松本への対応として、自分から6枚見えてるを先切りして七対子に固定した前原。
その巡目、松本がをポンして打。前原が持ってきたのは絶好のドラ。ピンズが余っていない松本に打ったが……
シャンポン待ちに放銃。符ハネしたマンガンで8000の失点となってしまう。
【南1局】、勝又がポン、ドラのポンと来た局面。自身はラス目で順位点を失うことがないうえに安牌の少ない、引き方によっては清一色の高打点も狙えるイーシャンテン。ここでツモ切ったが……
開いてびっくり。・ドラ3にホンイツも付いた跳満12000点。これで箱下に。
結局この半荘前原は一度も加点することなく、-70.6ポイントのラスを背負うこととなった。
麻雀を打っていればラスを引くことは必ずある。そのラスの内容の良し悪しは当然吟味する必要があるが、仕方がないラスであれば無理に気負わないことも大事なことだ。
今回の前原のラスはどうだったであろうか。放銃こそ多かったが、決して内容が悪かったわけではない。
【東2局一本場】では
小林のリーチと松本のと役牌の仕掛けに挟まれた場面。聴牌をするが……
一枚切れのを打って聴牌外し。リーチの一発目にドラを打ってきた松本にもリーチの小林にも生牌のは打てないという判断。こうしておくことで後の状況変化によってはよりいい聴牌に変化もし得る。
この選択が見事松本の・・トイトイのマンガンへの放銃回避となる。
決して無謀に前に出て点棒を失っているわけではないのだ。
今シーズンの前原はとにかくツモ牌が意地悪な順番のことが多く、今日も理のある選択の多くが裏目に出てしまっていた。
今期からはトップだけでなく、もう一人試合後インタビューに呼ばれることになっている。多くの場合、それはラスを引いた選手である。
インタビューで前原は開き直ることもできたはずである。しっかりアガってしっかり放銃するがモットーのチーム、今日は運悪く放銃が続いてしまったが次こそしっかりアガってみせると。
しかし前原の口から出たのは自身のチームのファン、そしてMリーグを応援している、見ている視聴者への謝罪であった。
「スランプではなく、自分が弱いから負けた。ただ、プロとして今日の半荘はいかがなものだったのか、それに尽きる。すみませんでした」
前原の63年の人生、その大半を費やしてきたプロ雀士としての時間、その重さを感じさせるに十分すぎる言葉である。
弱い自分が許せない、そしてそんな弱い自分を見せてしまったことに申し訳が立たない。プロとしての、麻雀打ちとしての真摯さ、そして誠実さを見せられて今日の前原のラスを手放しで責められる人はいないだろう。
前原は時に自分の麻雀人生を残り長くないと表現する。しかるべき結果を残せないのであれば、Mリーグから身を引かなければならないとの覚悟も示している。