"決意の打牌まで30秒"豪胆の魔王と双璧を成すは、繊細の夜叉姫【週刊Mリーグ2021セレクト11月15~19日】文・須田良規

その是非はわからない。

が、その決意の打牌までの30秒に。

伊達という選手が麻雀に対して真摯であること、
そしてたった2年の競技プロ歴で、いかに濃密な時間を費やしてきたのかが、伺い知れた。

さらに続く東4局
西家のEX風林火山勝又健志が12巡目にこのテンパイを入れる。

勝又は、この瞬間にやや時間を使って思案していた。

点棒的にはかなりリーチをしたいが、
東家の黒沢も今、完全安全牌の【北】を手出ししたところで、すぐに追いかけリーチが来そうな局面なのである。

そしてこの、場に【2ソウ】が3枚切れている状況で手出しの【1ソウ】リーチは、
かなりチートイツと読まれそうでもある。

黒沢の捨て牌に自身の待ちの【白】があり、今先に曲げて脇に止められるのは、得策ではない──。

逡巡した心理は、そういったところだと思う。

勝又は【1ソウ】を切って、ダマを選択。
そしてすぐに勝又の予想通りに黒沢からリーチが入った。

勝又はダマ続行。

これで脇から【白】を討ち取り、勝又の思惑通りに局が終わる。誰もがそう思っていた。

すぐに伊達が【白】を掴む。しかし──。

勝又の期待を裏切り、伊達が切ったのは【9ピン】であった。

全体牌図を確認して欲しい。

どうだろう?

この【白】を無造作に切らず、二人に通る【9ピン】を選んだのは──。
勝又の少考からの【1ソウ】切りの意味を、伊達が確実に汲み取っているように思えないだろうか。

これまでの対局内容と今回の結果から、伊達は攻撃手筋が優れているという印象が誰しも強いと思う。
アガリのルートが見えたら、愚形を捌き、受けを広め、真っすぐに手を進める。
素直な手順と断ずるのは簡単だが、それが淀みなくできることが実際は最大の攻撃力になる。

しかし、守備面での伊達の緩みのない思考と押し引きが、
伊達のもう一つの長所であり、魅力であると私は感じている。
豪胆なる魔王・佐々木寿人とは、全く異なる強さを持っているように思う。

伊達はこの後確かに、高打点のアガリを幾度となく積み上げて、結果Mリーグの大記録を打ち立てた。

しかしその陰に、手牌に溺れることなく、繊細に、実直に降りの判断をした局がいくつもあったことは、
皆さんも覚えておいて欲しいと思う。

魔王と、夜叉姫か。

声優でもある伊達を最大限に賛辞して、このチームの脅威を表すならこういったところか。

掛け値なく、強いヒロインが誕生してしまったと。
Mリーグの新章は、こんな心躍るストーリーで始まったといえるのではないだろうか。

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