その是非はわからない。
が、その決意の打牌までの30秒に。
伊達という選手が麻雀に対して真摯であること、
そしてたった2年の競技プロ歴で、いかに濃密な時間を費やしてきたのかが、伺い知れた。
さらに続く東4局。
西家のEX風林火山・勝又健志が12巡目にこのテンパイを入れる。
勝又は、この瞬間にやや時間を使って思案していた。
点棒的にはかなりリーチをしたいが、
東家の黒沢も今、完全安全牌のを手出ししたところで、すぐに追いかけリーチが来そうな局面なのである。
そしてこの、場にが3枚切れている状況で手出しのリーチは、
かなりチートイツと読まれそうでもある。
黒沢の捨て牌に自身の待ちのがあり、今先に曲げて脇に止められるのは、得策ではない──。
逡巡した心理は、そういったところだと思う。
勝又はを切って、ダマを選択。
そしてすぐに勝又の予想通りに黒沢からリーチが入った。
これで脇からを討ち取り、勝又の思惑通りに局が終わる。誰もがそう思っていた。
すぐに伊達がを掴む。しかし──。
勝又の期待を裏切り、伊達が切ったのはであった。
どうだろう?
このを無造作に切らず、二人に通るを選んだのは──。
勝又の少考からの切りの意味を、伊達が確実に汲み取っているように思えないだろうか。
これまでの対局内容と今回の結果から、伊達は攻撃手筋が優れているという印象が誰しも強いと思う。
アガリのルートが見えたら、愚形を捌き、受けを広め、真っすぐに手を進める。
素直な手順と断ずるのは簡単だが、それが淀みなくできることが実際は最大の攻撃力になる。
しかし、守備面での伊達の緩みのない思考と押し引きが、
伊達のもう一つの長所であり、魅力であると私は感じている。
豪胆なる魔王・佐々木寿人とは、全く異なる強さを持っているように思う。
伊達はこの後確かに、高打点のアガリを幾度となく積み上げて、結果Mリーグの大記録を打ち立てた。
しかしその陰に、手牌に溺れることなく、繊細に、実直に降りの判断をした局がいくつもあったことは、
皆さんも覚えておいて欲しいと思う。
魔王と、夜叉姫か。
声優でもある伊達を最大限に賛辞して、このチームの脅威を表すならこういったところか。
掛け値なく、強いヒロインが誕生してしまったと。
Mリーグの新章は、こんな心躍るストーリーで始まったといえるのではないだろうか。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki