"決意の打牌まで30秒"
豪胆の魔王と双璧を成すは、
繊細の夜叉姫
文・須田良規 【週刊Мリーグセレクト】2021年11月15日~19日
声優──。声優か。
KONAMI麻雀格闘倶楽部に、今期新規加入した伊達朱里紗のことを、そうとしか認識していなかった人も多いかもしれない。
11月18日(木)第2試合、伊達は10万5500点の大トップでMリーグレコードを叩き出し、
彼女は一躍有名プロ雀士となった。
“女版佐々木寿人”だと、彼女を評する声が高まった。
しかし私はこれより前に、伊達の打ち筋に興味を持ったことがあった。
10月22日(金)の第1試合で、
このKADOKAWAサクラナイツ・岡田紗佳の待ちリーチに対し、
伊達は親のツモり四暗刻テンパイからを掴んで降りた。
これは、「相手の待ちを読む慧眼」と、「役満を崩せる勇気」が兼ね備わってないとできない行為である。
これは──、ただの二足の草鞋の選手ではない。
そう思わせるには十分な出来事だった。
私は、伊達がどういう選手であるのか、その本質と真価を今日改めて見たいと思っていた。
東3局4本場、東家伊達はすでに54200持ちのトップ目。
このとき11巡目に西家のセガサミーフェニックス・魚谷侑未が切ったを、
南家TEAM雷電・黒沢咲がポンして打。
すぐに魚谷からリーチが入り、それに対して黒沢が際限なく押している状況である。
15巡目、伊達が二人に追いついた。
さて、この絶好の入り目、点棒状況と待ちで、普通の打ち手ならどうするであろうか。
伊達はこのとき、実に約30秒の、この日一番の長考をしたのである。
伊達は、そんなに打牌に迷う場面を見ることは少ない。
つまりこれは──、
伊達にとって確信に近い危険牌であり、相手の打点が高いことがわかっていたのである。
魚谷のリーチも怖いが、その待ちは実際のところ絞り切れない。
問題は、黒沢だったのであろう。
全体の様子を見てみよう。
まず黒沢は、9巡目にを切っておきながら、をポンしているのが不自然だ。
これはを引かなくても良い形だったということ。
9巡目の次はのツモ切りを挟み、何かを引いて、打。
そして魚谷からをポンして打のポンテンとなっている。
と、いうことは。
このように黒沢が雀頭に固定してを切り、
他の色にターツのあるイーシャンテンでを抱えていたことがまずわかる。
そして、
そのイーシャンテン部分が広くなったために、を切ったことが予想できる。
ここで雀頭候補であったをポンして、出てきたのがであったなら、
厚く持っていたのはソーズの下部分。
伊達から見ては3枚見えており、ドラが。
ましてや黒沢のポンテンということもある。
伊達は、黒沢がドラを固めているはずだと、かなり恐れていたはずだ。
そしてリーチの魚谷がとツモ切っていて、
黒沢の想像できる待ちは、かかか、必然的にそのあたりが残っていた。
伊達は熟考の末──、を横に曲げ、黒沢にマンガンを献上する。
「ハイ」という透き通った声が、覚悟と潔さをにじませていた。
もちろんこれは、これが東3局の親番であること、自身の待ちの強さなど、
いろんな要素を伊達が考えて、ここ1スジを押そうと決めて戦った結果である。