リーチ超人復活の序章
村上淳、勝利を目指した
炎の8局連続リーチ
文・東川亮【月曜・木曜担当ライター】2021年12月6日
大和証券Mリーグ、12月に入ってからの4戦では、佐々木寿人・朝倉康心・松本吉弘・黒沢咲がトップを獲得した。いずれも、直近で苦しい思いをしていた選手たちである。12月に入って流れが変わった─そんなふうに思いたくなるファン心理は、痛いほど理解できる。

苦しいと言えば、今シーズン最も苦しんでいるのは間違いなくこの男だろう。9戦6ラス、個人スコア-360.9ポイントは、どう考えても村上淳本来の姿ではない。

しかしいかに負けようとも、数々の不運に見舞われようとも、卓に向かう姿勢は変わらない。いつだってこの男は愚直に、勝つための最善を尽くす。

第1試合
東家:魚谷侑未(セガサミーフェニックス)
南家:村上淳(赤坂ドリブンズ)
西家:二階堂瑠美(EX風林火山)
北家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)

12月6日の第1試合、この日も村上の戦いは厳しいもののように見えた。東2局1本場、前局では満貫テンパイが不発に終わったが、ここでも赤赤高目三色のチャンス手で元気にリーチをかける。


しかし、テンパイしていた瑠美に放銃。加点チャンスはありながら、結果は裏目に出る。

東3局ではが早々に河に4枚見えで場況の良いカン
受け残しから

狙いのをきっちり引き入れ、巡目は遅いながらも先制リーチ。

しかしここも、巧みにチートイツドラドラ赤のテンパイを入れていた魚谷が瑠美から出アガリ。これで村上は4番手まで後退してしまう。

だが、村上の手は落ちない。東4局にはを引き入れての4巡目リーチ。

ただ、リーチ時に待ちのは山に残り3枚と巡目の割に少なく、すぐに1枚流れてしまう。そうとは知らずとも、親の堀も押し返してきており、心中穏やかではなかったはずだ。
村上も、悪い偶然ばかり続くわけではないことは理解している。とはいえ今シーズン、そしてこの試合でも苦戦する中で、リーチをかけてもどこか不安な気持ちはあったかもしれない。

だからなのか、村上はを引き入れた瞬間、それをしっかりと確認するかのように目視してからツモの声を発した。裏ドラが1枚乗って2000-4000。ようやく村上の一撃が決まる。

南1局では三色ドラ赤赤の1シャンテンから堀のリーチを受け、いったんは雀頭のを落としてまわるが、

単騎の役なしテンパイから
ノベタン待ちに変化したところで無スジ
をたたき切ってのリーチまでこぎ着けた。

流局で迎えた南2局1本場も、魚谷のリーチの直後に無スジを切って追っかけリーチ。ここも流局となったものの、待ちの
はしっかり山に残っていた。

南2局2本場は瑠美の先制リーチを受け、攻めたい形だったが雀頭のを切って迂回。

だが、完全に手を崩さずに粘り、形が再び整ってくると、リーチ宣言牌の跨ぎであるをプッシュ。現物
を打って手を崩すようなことはしない。

、ドラ
と引き入れてテンパイ、通っていない
を打って追っかけリーチをかけた。待ちの
は魚谷が
を暗刻落としてしているが、自身が
を4枚使っている以上、残り1枚はまだ山にいる公算が高い。

2021シーズン、村上はただただ耐えてきた。吹きすさぶ逆風のなかでじっと我慢し、少ない勝機を見いだしたはずが手痛いカウンターを食らう、そんなシーンが何度もあった。最善を尽くしても及ばないことも多い麻雀というゲームで、それでも村上はずっと、最善を尽くし続けてきた。
いい加減、この男が─

報われてもいいじゃないか。

リーチ一発ツモドラ赤、4000は4200オール。供託リーチ棒4本もさらい、ついに村上が一歩抜け出した。

点数を持てば、守りたくなるもの。しかも勝ちから遠ざかっているのであれば、そして自分やチームのポイントがないならなおさらだ。だが村上は、2番手堀のリーチに対し、通っていない、そしてドラ
まで押してリーチを打った。
実際、ここで堀に満貫でもツモられれば2人の点差は1万点を切り、状況は分からなくなる。それに、親でツモでの失点が大きい分、放銃とツモられたときで詰まる点数の差も小さい。自身が勝負形なら、ここはドラを切ってでも攻める場面と判断したということだ。決着は堀の満貫ツモアガリだったが、村上の麻雀がブレていないことが伝わった場面だった。

南3局は村上がリーチツモで500-1000。最終局は魚谷がアガり、村上は本人にしては遅すぎるであろう、今シーズン2勝目を手にした。

村上はこの試合で、実に8局連続でリーチをかけた。まさに「リーチ超人」と呼ばれる男の面目躍如といったところだが、村上とてただやみくもにリーチをかけまくっているわけではない。待ちはリャンメン待ちが7回とノベタン待ちが1回で、全てがそれなり以上の形であり、打点がついてきているものも多かった。道中の手順を含め、村上が勝負できる形を作っていたこと、そして攻めるべきところでしっかり攻めたことが伝わるのではないだろうか。本記事では全てのリーチを取り上げているので、ぜひ振り返って見てみていただきたい。
