何も見えなかった景色から、多くの映像が目に戻ってきた。
指の間からすり抜けた砂のように、最強位の座を逃してしまった宮内は一瞬落ち込んだように見えたが、すぐに晴れやかな表情になった
「倍ツモ条件を満たされるなんて、むしろ清々しい」
「瀬戸熊さんは私にはまだまだ越えられない壁なんだなって実感した」
と語る。
ただ、後悔があるとすればあのオーラス…
苦しい配牌から早々にオリ気味に打ってしまったが、捨て牌と手牌を合わせればのピンフでテンパイしている。そして一瀬や瀬戸熊のを捉えていたかもしれない。
そんな都合よく進んだかはわからないが、少なくともいい勝負にはなっていたはずだ。
麻雀は数字のゲームである。
「気迫」なんて結果に関係ない。
力を込めると好牌がツモれるなら、私だって今日から握力を鍛える。
麻雀はそんなふうにできていない… はずだ。
しかし、瀬戸熊の気迫を前に
醍醐は信じられないボーンヘッドを犯し
一瀬に涙を流させるほど心を震わせ
宮内を最後の最後でのけ反らせた。
4枚目のを引いて暗槓し、オナテンをツモリ勝ち、裏ドラの乗りにくい形でもきっちり乗せてきた。
本当に麻雀に気迫は関係ないのだろうか。
そして瀬戸熊の気迫は卓内だけでなく、卓外にも伝播していく。
いい大人が揃いも揃って涙しはじめたのだ。
麻雀は運ゲー。
麻雀はクソゲー。
プロだってそう思う瞬間はある。
でもなぜその運ゲーで
なぜその1牌の後先で
打つ者の魂を震わせ、見る者の心を打つのだろう。
いい大人がランダムに置かれた牌のやりとりで、涙を流し、手を震わせる。
普通に生きていたら、絶対に味わえない非日常が、麻雀には存在する。
瀬戸熊の気迫は、会場内だけでなく、全国に伝播した。
プロアマ問わず、麻雀打ちの心を打ち、多くの人が涙を流したのだ。
私もその1人である。
麻雀ってなんて素晴らしいんだろう。
最強戦ってなんて感動的なんだろう。
多くの人が瀬戸熊の無言の背中を見て、あの舞台に立ちたいと思ったはずだ。
最強戦はいつでもあなたの挑戦を待っている。
麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で戦術特集記事を連載中。note「ZEROが麻雀人生をかけて取り組む定期マガジン」、YouTubeチャンネル「ZERO麻雀ch」