「あんな手で粘らないで、キッチリ降りて、で放銃した方がいい気がする」
私はこの言葉を聞いて、目が覚める思いがした。
そうだ。確かにこの手は、スジのなど切らずにまず現物のを打つのがごく普通の、当然のことだ。
内川の現物を残したいのもわかるが、実際内川からリーチが来るかどうかは確定した未来ではない。
だいたい萩原からリーチが来れば結局は打てなくなる。
萩原のテンパイは読めていないし、読みようがない。
たまたま萩原はすでにテンパイしていたが、むしろ後半に全方向に対して残したい牌は、になる。
重要なのは、今伊達からかかっているリーチに対し、しっかりと現物を抜くことである。
結果論で、マンガン放銃を回避したことを喜ぶべきではないと──、小林はこう考えていたのだ。
私は小林の言葉に、小林の信奉する麻雀の本質と、それを実行するチームとしての意志を強く感じた。
実は──、
2月18日(金)の第2試合でも、U-NEXT Piratesというチームらしさを彷彿させるシーンがあった。
石橋伸洋が、終盤にをツモ切って、すぐにをツモって4000オール。
これはの方を切っていればタンピンツモ赤赤ドラの6000オールだったために、
おそらく多くの観戦者が批判していたと思う。
しかしこれを、「いいアガリだ」と評したのも小林であった。
まず石橋は12巡目にドラのを切った後、安全牌の東を手出ししている。
他家全員が、石橋に高いヤミテンが入っているとわかっていたと思う。
ではこれが、何待ちに見えるだろうか。
か、か、か。を切る前はせいぜいそんなところではないだろうか。
元々この3スジはかなり打たれにくい。
仕掛けている園田が引いたらいったいどうするのか、興味深いところであったくらいだ。
ではが切られていたら、園田は果たしてを止められただろうか?
石橋はをツモったので損をしたように見えるが、ツモなら結局6000オールであったし、
何よりも瞬間14600の加点確率を大きく上げられるのは間違いない。
切りの結果だけを見て──、その是非を判断することはできないと思う。
もちろん麻雀プロの世界は、成績を残さなければならない。
結果論でも何でもいい、勝てばその選手もチームも、世間的に認められると思う人は多いだろう。
しかし、小林剛という選手は、結果論を好まない。
どんなに麻雀がエンタメの様相を強くしていこうとも、
チームの選手が偶然の放銃回避を産もうとも、
正着を求めることから目を背けようとはしない。
勝つ前に──、真の麻雀プロでありたいのだ。
この精神が万人に受け入れられるとは限らないだろう。
選手の思考など、鮮やかなアガリ形の陰でそう取り沙汰されるわけでもない。
記憶に残るのは、多くの場合結果だけである。
それでも、選手の打牌を、冷静に、麻雀プロとしての視点で、
結果論によらず判断してくれるその頼もしい存在が。
私たちが忘れかけていた麻雀プロの在り方を、
この華々しい世界にも、つなぎとめていてくれるような気がするのである。
追記になるが、それでも朝倉としては考察の末切りが良いと考えているということである。
記事の論旨が小林の考えだけを肯定する形になってしまったのは申し訳なかった。
もちろん朝倉も偶然の放銃回避を議論の軸にするわけでもなく、
チーム内でもこうした検証を厳密に、対等に行えるU-NEXT Piratesは、
やはり麻雀プロの未来を担う強い存在であると思う。
日本プロ麻雀協会1期生。雀王戦A1リーグ所属。
麻雀コラムニスト。麻雀漫画原作者。「東大を出たけれど」など著書多数。
東大を出たけれどovertime (1) 電子・書籍ともに好評発売中
Twitter:@Suda_Yoshiki