魔王・佐々木寿人の麻雀には、
勝利と人心を惹きつける
魔力がある
文・東川亮【金曜担当ライター】2023年9月29日
第1試合
東家:仲林圭(U-NEXT Pirates)
南家:佐々木寿人(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
西家:日向藍子(渋谷ABEMAS)
北家:黒沢咲(TEAM雷電)
大和証券Mリーグ2023-24、9月最終日の第1試合は、途中までは間違いなく日向藍子のゲームだった。
東3局、黒沢のリーチに対して高目タンヤオの3メンチャンリーチで追っかけると、黒沢から一発で高目を打ち取って12000。
次局はオタ風2つを仕掛けてホンイツに寄せると、チャンタがつくカン待ちから待ちにスライドするもツモで打点を補填。
ホンイツ赤・テンパネ2600は2700オールのアガリで他3者を突き放す。
南2局は寿人の待ちリーチ、黒沢のチートイツ待ちに対して最後のを暗刻にし、2人の待ちを握りつぶしてリーチをかけると、安目ながら寿人から一発で出アガリ。
眼下に迫る寿人から5200の直撃は、トップを手中に収めるには十分な加点のはずだった。
点数はご覧の通り。日向は2番手の仲林に対し、2万点以上の差をつけている。しかも、大きく離れた黒沢を除く2人は、もう親番がない。
この日の解説を務めたセガサミーフェニックスの新Mリーガー・醍醐大は、「『満貫2回を連続でツモればトップだな』とか考えることはよくあるけれど、達成したケースを思い出せないくらい難しい」と語る。
これはある程度麻雀を打ったことがある人なら肌感覚で分かるだろうし、単純な確率で見ても明らかだ。
麻雀が4人で行うゲームである以上、アガれる確率はシンプルに考えて1/4、流局を含めるともう少し下がる。
それを2回連続で、しかも満貫クラスの打点を伴ってとなれば、確率としてはおそらく5パーセントを下回るだろう。
ただ、可能性がゼロではないなら、目指す価値はある。南3局、寿人は役なしドラ1の愚形テンパイをノータイムで外した。
現状自身は3番手で、ラス目とは2万点以上の差がついている。
ラス落ちの可能性があまりなくて上を目指しやすく、待ちのは既に2枚切れ。好形変化や打点アップの可能性も見える手牌で、テンパイ外しの条件はそろっていた。
カン待ちよりはるかにアガれそうな待ちを作ってリーチをかけ、
高目を一発でツモって3000-6000。
寿人と日向の点差は23900、満貫ツモ2連発でも届かないほど開きがあったが(※)、ハネ満ツモなら話は別。一気に5900点差まで詰めより、日向を現実的な射程圏内に捉えてオーラスを迎えた。
(※寿人が満貫を2回ツモった場合、親番のある日向に対して詰まる点差は22000)
迎えた南4局。
寿人の逆転条件は出アガリなら6400、ツモなら1300-2600から、直撃であれば3200でOK。
配牌時点でドラが2枚入っていて1メンツ、最低限の逆転条件はできそうだ。
対する日向はアガりさえすればトップだが、手は決してよくなく、タンヤオなどもつけにくそうな形。
7巡目、寿人が道中で重ねていたをポンして、
ピンズのリャンメンターツを払っていく。チャンタドラドラの満貫になれば、無条件で逆転だ。から切ったのは、を引き戻したときにをスムーズに払える形を残したのだろう。
そんな寿人に、思いがけなく最高のテンパイが入った。仲林が切ったドラのをチー。これで打点は満貫が確定、アガリ方に注文はつかなくなった。
もちろん、仲林にはドラを持つ理由も、切る理由もあった。寿人、日向を逆転するには直撃を除けばハネ満ツモ以上が必要な状況で、手牌は赤赤、打点の種火はある。
その炎を望む大きさに育てるために、1巡目に引いた孤立のドラをギリギリまで引っ張っていたのだった。ただ、もはや手牌の形がそれを許さなかった。
寿人のテンパイ直後、日向が寿人のロン牌をつかむが、現物のを切っていく。
は手牌に不要だが、リャンメンターツを落としている寿人が普通の手組みをしているとは考えにくい。
おそらく逆転条件が入っているとすれば、もはや危険牌は切れない。特には、チャンタやホンイツなど、何らかの手役に絡んでいる可能性が大きい牌である。
アガリが3回、放銃はゼロ。この試合は、日向藍子のゲームになるはずだった。しかし、仲林がリーチを宣言してを河に放ったとき、