大胆と慎重のはざまで ダブルリ―チに身を委ねない内間祐海の判断 麻雀最強戦2022【女流チャンピオン決戦】観戦記【A卓】担当記者:藤原哲史

しかしここからの藤川が巧かった。まずは、テンパイを取らない打【北】

続けて、カン【5ピン】テンパイで復活したあとに、裏筋の【9ソウ】はプッシュ。

【6ピン】を止めて【9ソウ】を押した理由は、【9ソウ】で放銃したときの打点である。789三色の可能性は薄く、【9ソウ】がアタるならば、あってメンピンだろう。理屈はそうなのだが、かなり危険に見える【9ソウ】を押すのは勇気がいる。
しかしその後につかんだ【9ピン】で、通った筋が多くなっているため、藤川は再度ダウン。

「アタリ牌をつかむたびにヤメますね、藤川選手」
それは、実況の日吉辰哉が送った最大級の賛辞であった。第11期将妃、そしてMENSAの名はやはり伊達ではない。この局は、逢川の一人テンパイで流局。

即・ツモ切りにみる魚谷の矜持

南1局
結論から言えば、この局が魚谷の最後の局となってしまった。
東場は手が入ったものの全て実らず、南場はまったくと言っていいほど手が入らなかったからだ。それでも私は、この局に魚谷の女流桜花、そしてMリーガーとしての矜持をみた。

まずは局を進めたいトップ目の内間が、1巡目の【北】をポンする。

【4ピン】【7ピン】待ちに変わった内間の打【8ピン】(ドラ)を魚谷がポンして、打【9マン】とした。

ドラポンではあるが形が悪すぎて、良くてテンパイ止まりだろう。大体が内間のアガリになる。そう考えていた。
そして次巡。2枚切れの【中】を、魚谷は瞬時にツモ切った。安全ではない【1ピン】を残して、である。

この凄さが分かるだろうか。手牌だけで言えば、間違いなく【1ピン】が不要である。しかし【9マン】【1ピン】と手出しで並べてしまえば、役牌が全て場に出ている中で「魚谷の手牌はまだまだだ」と他家に評価されてしまい、いまのうちと踏み込まれたり、内間の1000点に差し込まれたりしてしまうかもしれない。また、少しでも迷って【中】をツモ切れば、これも「まだ魚谷はノーテンである」と評価され、憂き目に遭う可能性が高い。

即座に【中】をツモ切ることによって、「魚谷はまだテンパってはいなそうに見えるけど、よもや(のテンパイ)があるな」と他家に警戒させ、自由な打牌をさせないのだ。ここに私は魚谷侑未の凄さをみた。

これを見て、逢川と藤川はすぐにオリた。内間も最大限の努力で【4マン】を手出しし、自身の手がホンイツではないことをアピールして他家に助けを求めたが、魚谷の執念が内間のテンパイを凌駕した。

トップ目内間から、貴重な8000点の直撃。
しかしこのあとの魚谷は全く手が入らず展開に意地悪をされ、事実上この局で魚谷の最強戦は終わってしまった。

南2局
前局に8000を放銃した内間であるが、決して良いとは言えなかった配牌を丁寧にまとめ、リーヅモチートイの1600・3200を和了。そう、これくらいでブレるメンタルなら、そもそも内間はここに座っていない。

大胆と慎重のはざまで迫られた内間の判断

南3局
配牌を開けた内間が、息を吞む。
なんと、第一ツモでテンパイである。「ダブリ―だ!」モニターの向こうから、観衆の声が重なった。

内間は考えた。自身は現状トップ目であり、2位までが勝ち抜けのルールである。自分がダブリ―をかけたらどういう展開になるだろう。恐らく2着目の逢川は踏み込んでこない。3着目の藤川とて、放銃して2着目が遠くなるよりもあまり無理をしないはずだ。となると、腹を括って勝負にくる4着目の魚谷との一騎打ちとなることが容易に予想され、最悪のケースである魚谷に12000以上放銃の未来が残る。

とはいえダブリ―をかけないことは、決して楽な道ではない。全員を自由に打たせることが、果たして自分に利する行為かは分からない。「ほら、素直にダブリ―しておけば」という、衆目の目だってある。こんなにも、1巡目で「大胆」と「慎重」が大きく分かれる選択も珍しい。
しかし11年間の女流Aリーグで培った経験が、左右にぶんぶんと揺れ動く「大胆」と「慎重」の振り子を鎮めて、内間の第一打を縦にした。

「慎重」の選択である。何が正解かなんて、誰にも分からない。けれど内間がダブリ―をしなかったお陰で、2着目の逢川も悠々と仕掛けを入れることができた。

結果、目論見通り上位2人で1局を消化することができたのである。

歴史にもしもは無い。ただ、内間が安易なダブリ―に身を預けていれば、【4ピン】【7ピン】は全て脇に流れており、逢川も仕掛けることがなく、勝負の行方は分からなかった。

最後にみせた藤川の意地と、逢川の胆力

南4局
オーラスを迎えて、トップ目親番の内間はほぼ当確である。残り1席を、逢川、藤川、魚谷の3者で争う事となった。

難しい手牌となった3着目の藤川。2着目まで、5200出アガリ条件である。

下馬評で言えば最下位の藤川。しかし藤川は、このままで終わる訳にはいかないと、心の中で歯を食いしばっていた。

自分への投票は2.9%。しかし、得票数10,251票の2.9%は、なんと300票も入っているのである。その300人のために、私は自分の麻雀でこたえたい。「少しだけ爪痕を残せて良かった」なんて、そんな終わり方はしたくない。

狙うは5200なのだ。そのために【北】はいらない。最後の意地をかけた藤川の想いが、5200に必要な【2マン】【3マン】【4ピン】を、ピンポイントで引き入れた。

文句なし、5200リーチ。藤川の深い息が、卓上に溶ける。投票した300人が、藤川と同じ右手に、藤川と同じ汗をかいていた。

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