渋谷ABEMAS・多井隆晴の何が強い、というのは実際一言で言い表しにくい。
4年間のレギュラーシーズンで唯一のトータル1000ptオーバー。
しかし、神がかったスーパープレイが特に目立つといったタイプの選手でもない。
気がつくと──、勝っている。そんな印象を持ってしまうことはないだろうか。
実は何度か多井の麻雀を紹介しようと思うことはあったのだが、
うまく表現することがかなわなかった。
半荘を通して、ずっと、地味に上手い──。
という凡百の言葉しか浮かばないのである。
何か一局を取り上げようとしても、同じくらいの濃度で他の局もよかったりする。
しかし、今回その強さの片鱗を伝えやすい展開があったので、この機会に取り上げてみようと思う。
11月10日(木)の第2試合、まずは東4局である。
5巡目のここから多井はを切る。
トップ目とはいえまだ2万点台で、普通にアガリを目指してもいい局面であるが、
東家のセガサミーフェニックス・茅森早香がと切っていて、自身の手が間に合うと思えない。
よって字牌を抱えてスリムに進行。
次巡、茅森がもツモ切りしたのをみて、危険そうなソーズを切り飛ばしていく。
途中裏目に見えるを引いたが、
8巡目、が重なってチートイツに決める切り。
書けば単純な引き気味の麻雀だ。
しかしこの手牌は、普通の進行にしていても違和感はない。
というか、そう打つ方が大多数ではないだろうか。
自然に打てば、
このような形になっていて、直後園田にツモ切られたを鳴いて、
打あたりの2000点イーシャンテンになることが多そうである。
そしてここからリーチや仕掛けを受けて、安全牌に窮して放銃する・・・、
こんな状況に陥ったことは、誰しもある経験ではないだろうか。
多井は放銃率が本当に低い。
それは当たり牌をビタ止めするような、見た目に派手な結果を量産したわけではない。
“そういう状況”を作らないことが多井の特長なのである。
後半、選択に困る、安全牌に迷う。
そうならないように、終局までの展開を前もって決めておく。
だから多井の麻雀は地味である。
「こんな手から打つわけないだろう」と見る側が思っているときにはすでに、
そういう手に多井自身がしているのである。
配牌オリ、という多井のよく取る選択。それを好まない人もいるだろう。
戦術ではない、つまらない打ち方だと揶揄されることもあるだろう。
実際自分でそう打ってみれば、確かにこんなにつまらないことはない。
しかし多井は──、言葉を選ばず言えば、
麻雀を楽しんでいるわけではない気がする。
全ては、勝つために。
絵合わせではない、ただ結果を残すためだけの麻雀を、苦しみながら貫いているように思う。
9巡目にはも重ね、チートイツイーシャンテン。
これが次巡すぐテンパイして、切りリーチ。
さて余談ではあるが、多井の河はチートイツと見えにくいものになっていた。
場況の悪い受けを嫌って、を裏目ったものの、
宣言牌は自身も切っている安全牌の北のメンツ手、といった印象。
もちろん昨今では先切りしてあるその字牌が宣言牌であっても、
チートイツの否定材料にならないことは、誰しも意識している。
ただそれでもこれは誰も止められなかった。
KADOKAWAサクラナイツ・内川幸太郎がイーシャンテンで、ツモ切り6400の放銃。
裏ドラが乗ればハネマンになる赤ありチートイツは、Mリーグルールでは相当に強い。
元々受けてのチートイツが得意な多井にとって、相性がいい手役だと思う。