多井にとってこれはたまたまの結果であり、アガリを狙ったものではない。
ただ、ツモが利いたときの破壊力はある。
安手で目一杯のメンツ手進行にしなかった、まさに多井にしかできないアガリだった。
この半荘は、南2局1本場に大きく状況が変わる。
このテンパイを入れていた多井が、園田に18000を献上。
リーチ負けのようなものでもちろん仕方ない放銃であるが、
裏を返せば、多井が放銃するというのはこういう状況だけである。
多井自身、3年ぶりのレギュラーシーズン18000放銃だ。
そして多井ラスのまま、南3局1本場。
多井は10600点持ちで、2着目の茅森と23600点差、3着目の内川と3700点差。
多井のラスももちろん珍しい。
先日の11月4日の試合でもラスだったが、その前のラスはなんと昨年の11月8日である。
ここで南家茅森がラス親に向けてポンの速攻を入れる。
多井の手がこう。
ここで、対面の東家内川が切ったをポンした。
先に決めていたのが明らかなノータイムの発声。
この、実際は茅森がチーテンを入れられる。
鳴けばすぐにこの局は茅森のアガリで決していただろうが、
多井がインターセプトする格好でそれを阻止している。
もちろん多井は3900で3着目になるし、鳴き自体にそう不思議はない。
しかし、この点棒、この牌姿なら、メンホンチートイツなども見て声が出ない人もいるのではないだろうか。
多井の目線だとこのは5枚目だ。
役牌の鳴きを入れた選手の上家が何を切るか、それは鳴いた者のネックではないか、
多井はこういう判断を先立って下しており、このポンは機を見るに敏といっていいだろう。
ドラを引き入れ、を鳴いてこのアガリ。
マンツモで内川を突き放す。
絶望のインパチ放銃から、まずは一人かわす。
南4局。
多井は東家の2着目茅森と12200点差、ラス目の内川とは9700点差の3着目。
マンツモでも茅森には届かない。
ここで切りのペンカン待ちテンパイを取る。
ただピンフで役ありを目指すならソーズに雀頭を作るために一旦を切る方針もある。
しかしが2枚切れでマンズの下も高く、が弱く見えたこと、
内川の捨て牌が遅そうで、茅森からのリーチ棒待ちのマンツモ、あわよくばソーズ一通でのハネツモの猶予があることから、
切りを選んでいる。
瞬間のツモによる3着確定の逃げもあるだろう。
そして引きで、今度はイッツーとドラでのハネツモが見えたので切り。
この後茅森から親リーチを受けるも──
このテンパイで追っかけリーチ。
裏1でのマンガン直撃かツモアガリで2着になる。
そして見事に一発ツモで裏ドラが乗り、ハネマン。
また一人かわし、トップの園田とは1700点差の2着終了。
途中わずかにでも園田がテンパイ料などの加点を怠っていたならば、
南2局で18000を直撃した親番のない相手に、逆転を許していたのである。
ここに書き切れない、多井がアガっていない局は、多井はこれ以上の失点をしないため丹念にオリていた。
親番のない、ダンラス目である。
棒攻めにまかせても仕方がない状況でも、地味で、つまらない苦行のようなオリを繰り返して、
アガリにかける数少ないチャンスだけのために、ただ辛抱していた。