役満の気配満ちる一戦　混沌を制した573の鬼姫、伊達朱里紗【Mリーグ2022-23観戦記2／9】担当記者:東川亮

いったんはバックした。こうなると頭は守備に行きがちだが、ここでが出たことで再度ギアを前に入れる。仕掛けてを落とし、マンズかピンズでもう1メンツを作る構想。同じ1シャンテンだが、切り前の形と比べると、フリテン受けも残るとはいえ、テンパイする牌の種類と数が格段に増えている。

直後、小林が待ちになるが、伊達もを引いてが出ないテンパイ形になり、をプッシュ。

はフリテン、しかしツモってしまえば関係なし。中赤、700-1300のアガリは、打点よりもそこに至るまでのルート選択で、強烈なインパクトを残した。

さらに次局は、堀から満貫を出アガリ。

顔と声はきれいだが、その目には強靱な戦意が宿る。
「格闘倶楽部の鬼姫、伊達朱里紗」
実況・日吉辰哉の言葉が響いた。

取り逃した宝

南3局、伊達の手はあまりにバラバラすぎた。序盤から中張牌を切り出していき、發がトイツになったところで選択。現状はトイツが3組でソーズが多め、一方で19字牌は全部で9種。シャンテン数だけなら一番近いのは役満・国士無双だが、あまりにも受け入れが狭く、仕掛けも使えない。

というわけでを切って国士無双は見切る。

だが、その後のツモが、。もし真っすぐ国士無双に向かっていれば、ここで待ちテンパイ。残っている牌もリーチをかけていた小林に切りやすいものばかりだった。

もちろんそのときは捨て牌や切り出しがきな臭くなっているわけだが、親の黒沢の手がここまで整っていれば、同じようには打たれただろう。そうなれば伊達の持ち点は96300点、オーラスの親番は黒沢の持つ歴代最高スコア、112700点超えに挑むのみだった。

黒沢が追いつくも、小林が引き勝って満貫ツモ。この結果が、もうひとつの異例を生むことになる。

小林剛、逆転トップへ断固たる見逃し

オーラスは小林がわずか3巡でテンパイした。のシャンポン待ち、タンヤオイーペーコーで、このままアガれば出アガリ2600、ツモって1000-2000。伊達との点差は13600点とハネ満ツモ条件で、現状では全然打点が足りないが、ピンズの多メンチャンやイーペーコー変化、マンズの変化や赤への振り替わりも考えると、打点上昇、好形変化の牌がとたくさんあるため、ここはダマテンにして変化を待つ。ちなみにツモってしまった場合にはを切ってのフリテン待ちで赤引きを狙ったとのことだ。

しかし、臨む変化が訪れないまま、8巡目に堀がをツモ切り。

小林は口を真一文字に結び、その牌に一瞥をくれるのみだった。この局のハネ満ツモは、1着になって得られる順位点も含めれば52000点、役満以上の価値がある。そのチャンスを2600で終わらせるのは損という判断。3着目の堀と4万点以上離れていて着落ちの可能性が限りなく低いという状況が、小林の見逃しという珍しいシーンを生んだ。

2600をアガらないのは、ハネ満をアガるため。そしては三色の、ハネ満の種となり得る牌だ。ここで小林はを切ってテンパイ外し。

時間はかかった。しかし、条件は整えた。満を持しての待ちリーチ。なら無条件、なら一発か裏1で逆転トップ。共に、山には1枚ずつ残っていた。

小林が引き寄せたのは安目の、リーチの2巡後のことだった。裏1条件は・・・

ならず。満貫止まりで、伊達が逃げ切った。

これで伊達は個人首位に浮上、MVP獲得も現実味を帯びてきた。卓の外ではおちゃめで愛嬌もあるが、卓につけば鬼と化す。この日の戦果はくしくも、チームの名を表す「57300」点。混沌の一戦を制した美しくも恐ろしい「鬼姫」が、チームを初の優勝へと導く。