役満の気配満ちる一戦
混沌を制した573の鬼姫
伊達朱里紗
文・東川亮【曜担当ライター】2023年2月9日
大和証券Mリーグ2022-23、2月9日の第2試合。メンバーは、攻撃と守備、門前と仕掛け、さまざまな駆け引きを堪能できそうな顔ぶれとなった。全11局、流局なしで必ず誰かがアガった一戦。しかしその内実は、ひと言で表すなら、混沌だった。
第2試合
東家:小林剛(U-NEXT Pirates)
南家:堀慎吾(KADOKAWAサクラナイツ)
西家:黒沢咲(TEAM雷電)
北家:伊達朱里紗(KONAMI麻雀格闘倶楽部)
ポンの声は異常事態の合図
東1局2本場。
第1ツモでが暗刻になり、堀はを切った。
そこにポンの声がかかった。
声を発したのが小林であれば、役牌か染め手かトイトイか、いずれにしても特に違和感はない。
伊達ならば、小林よりも仕掛けへの警戒度は上がりそう。一色手やドラ暗刻などの早くて高い手が入っていると予想できる。
声の主は、黒沢だった。
・・・黒沢が?
ポン??
1巡目に???
明らかな異常事態、理由はもちろん手牌にあった。配牌時にがトイツ。ここから見える最高形はただ一つ、役満・清老頭である。4メンツ1雀頭を19牌のみで構成する手で、Mリーグでも今だ出現したことはない。本人いわく「1巡目ポンは人生で初めてか2回目か」。雀歴何年なんだという素朴な疑問はともかく、このポンがどう考えてもヤバいのは、選手は当然として、Mリーグを見てきたファンにとっても共通の認識だと言える。
をチーした小林から切られたをポンしてリャンメン落とし。仕掛けているのが黒沢である以上、これがただのトイトイであるはずがないのだが、とは言えまだ清老頭にはターツが足りない。
發を仕掛けた堀がをツモ切るが、声はかからず。
そうこうしている内に、伊達がリーチをかけた。ポンされているターツから入り、タンヤオが確定しての待ちは、平時ならほとんどリーチの一手。相手が清老頭模様とは言え、使える牌の種類が極めて限られている以上、テンパイすらそうそうなし得る手ではない。普通に考えれば、伊達のほうが分のいい勝負なのは明らかだ。
しかし、そんな「普通」を豪快かつ鮮やかに覆す様を、我々は何度も見てきた。黒沢が、堀が切った段階では1枚しかなかったを重ねて1シャンテン。
伊達がをツモ切り、
ポンして清老頭テンパイ。Mリーグでも、テンパイすら初めてという奇跡が、ここで炸裂するのか。
最高潮に達した希望は、即座に潰えた。すぐに伊達がをツモって満貫。麻雀格闘倶楽部ファンはほっとした、そして雷電ユニバースにとっては悔しさの募る一局となった。
悔しそうな黒沢。それにしても、彼女の1巡目ポンは文字通り空気が変わる。
鬼姫、鬼の切り返し
東2局、先手を取ったのは堀。リャンメンリャンメンがあっさりと埋まってのテンパイは、非常に感触が良い。待ちのは、リーチ時点で山に5枚残りだった。
リーチを受けた伊達は、ドラドラの1シャンテンとはいえ、愚形残りで親のリーチには向かわず、メンツから現物を中抜き。この辺りは徹底している。
しかし、ワンチャンスなどでまわっていきながら、何とチートイツのテンパイにたどり着いた。選択はと、は堀の当たり牌だが・・・。
ここはより外側の牌である切りを選ぶ。どちらも全くの無スジだが、はと比べてカンチャン待ちが存在せず、当たるパターンがわずかにより少ない。
最終手番、小林は伊達が切ったをチーした。リーチの堀はもとより、無スジを押している伊達もテンパイは濃厚、ただしリーチをしていないということで、待ちがあまりよくなく、オリの選択も残しているとも読める。その伊達にハイテイを回すことで、より得な結果になることを狙ったのだ。2人テンパイなら失点は1500だが、伊達がオリて1人テンパイなら1000、もし伊達が押して放銃してくれれば、自身は無傷でこの局をしのげる。
小林の仕掛けは、ほとんどのパターンで自身のメリットとなるはずだった。唯一、伊達のハイテイツモというレアケースを除けば。ハイテイ牌として積まれていたのは、まさかの。ハイテイツモチートイツドラドラ、ハネ満のアガリで、伊達が大きく抜け出した。
東3局は、小林がカンチー、ポンとアグレッシブに仕掛ける。特にポンはシャンテン数が進むとはいえメンツを崩すことになるため、鳴けない人が多いのではないだろうか。なんとも小林らしい仕掛けではある。
を鳴いてホンイツの1シャンテンだった伊達だが、を引いて少考し、を切った。これは現状自分の手がトイトイにならなければ中ホンイツの3900から5200、そしてが既に2枚切れていてトイトイになりにくくなっているということで、いったんは受けに回った形。たしかにはピンズの真ん中を切っていない小林に対して打ちづらい牌だが、ここでスパッとを選べるところが、伊達の鋭さである。