麻雀AIの中に、僕はいる　渡辺太が選び続けるは、麻雀の未来【Mリーグ2023-24観戦記 11/16】担当記者 #後藤哲冶

これが思いがけず伊達からのアガリに繋がった。
２着目伊達からの5200の直撃は大きなアガリ。

南３局

この局も、最初に仕掛けたのは太だった。
今度はこの形からのポン。
この点数状況で、この仕掛けができる打ち手が一体何人いるだろうか。

優が太の切ったをポン。
太に好きにやらせるわけにはいかない。こちらも決して手形が良いわけではないが、優も呼応するように仕掛けていく。

太はどんどんと字牌を切り飛ばし、手牌を目一杯に進めていく。
安全牌を持つなどという思考をするくらいならば、先にアガった方が良いと言わんばかりの打牌だ。

優もなりふり構わずに仕掛けていく。のポンに続いて、カンのチー。
余談だが、この３副露時点で、太はこの優の仕掛けが「テンパイでないことの方が多い」のを読み切っていたという。
優もまた、太と同じネット麻雀「天鳳」を打ち込む雀士の一人。
その打ち筋を知っているからこそ、太はこの優の仕掛けがまだノーテンであることも多いにあると感じたのだ。

伊達からの早いリーチを受けるも、カンをチーして応戦。のシャンポン待ちだ。

通っていないも、容赦なく切り飛ばした。トップ目から、積極的に仕掛けて、テンパイで押す。
本人は当然のことをやっているのかもしれないが、それは並大抵のことではない。
この仕掛けと押しっぷりに関して、この日解説を務めた石橋プロが「ハートが強い」と表現していた。

確かに、それもあるかもしれない。
けれどどうしてだろう。こと太に関しては、ハートが強い、というよりも。
「こちらの方が得だからしている」というその感情のみで動いているのではないかと思ってしまうのだ。

結局、この局は菅原が伊達への放銃となり。

オーラスも、自ら決め切るつもりでテンパイを入れた太の１人テンパイで、太がＭリーグ２勝目を手にすることとなった。

３着とはなったが、オーラスの優の選択が見事だった。

３着を確定させるテンパイを入れていた優。
誰からもリーチはかかっておらず、自らの最後の手番で持ってきた。

これを、止めて、ノーチャンスの打ち。
実はこのが、太のダマテン、一気通貫赤ドラの8000点放銃でラス落ちとなる牌だったのだ。

優はこのに関して、もっと持ってくるのが早かったら、切っていた。と後に語っている。
仮にここで持ってきたのがで無かったとしても、菅原に鳴かれ得るソーズなら全て止めていた、とも。
このビタ止めという事象は、優がこの最終局に様々なアンテナを張り巡らせた結果、テンパイの入っていなさそうな菅原に鳴かれうる且つ、強い牌を切っていてテンパイが濃厚の太に当たり得るそして、アガリはもう巡目的に厳しいという様々な条件がかみ合って起きたのだ。

それにしても、この放銃回避しての３着キープは、パイレーツにとっては余りにも大きな戦果と言えるだろう。
優の繊細な打牌選択が、しっかりと結果に繋がった。

トップに、渡辺太。
らしい選択全開で、見事トップ逃げ切りとなった。

冒頭にも触れたように、太は麻雀ＡＩのモデルともなっている。
全ての打牌に正解を作るのは難しい。けれど、太の打牌が、多くの人に対する指標となり、ひとつの正解になろうとしている。
それは本当に凄いことで、つまりは、太の選んだ一つ一つの打牌が、麻雀界の未来を切り開いているのだ。

凄まじいほどの経験と知識、そして常に常識を打ち破ることのできる柔軟さで。
太はこれからも幾度となく、新しい景色を見せてくれるだろう。