「4枚見えか、は当たらない」
一転窮地に立たされた歌衣だったが、冷静に場を見渡していた。
が4枚見えているいわゆるノーチャンスになっており、リャンメンやカンチャンを構成しにくくなっている。
いざとなったらを切ってオリは、十分ある選択肢だ。
ギリギリでテンパイを取り続けてきた歌衣に、最後の試練が舞い込む。
赤だ。
「の線はない、の線も。のシャボ(シャンポン)だけ」
時間をギリギリまで使って、歌衣が思考の海に沈む。
今まで費やしてきた研鑽の全てが、歌衣の頭を巡る。
そうして、歌衣が持ち時間を使い切って出した答えは――
「行こう」
押し、だった。
そう、歌衣の言葉通り、このはほとんどのケースでリーチ者2人に当たらない。
が2人とも通っており、4枚見えでで当たるケースが消滅。同じくカンも無く、当たるなら単騎かシャンポンのみ。
麻雀は、正しい打牌をすれば勝てる競技ではない。
が、こうして正しい打牌を模索し、繰り返せば。
時折訪れる幸運を、迎え入れる事ができるのだ。
4着となってしまったルイスキャミ―と、3着になった長尾が、インタビューで連投を宣言。
なんと第2試合も全員連投で、同じ顔触れでの対局となった。
2人はこの第1試合のリベンジを成すことができるか。
トップに、歌衣メイカ。
歌衣は今シーズンの初戦となった、第1節の試合時。
のノーチャンスに気が付くことができず、アガリを逃してしまった。
トップこそとれたものの、「押せる牌を押しきれなかった」ことは、歌衣にとって悔しい事実に変わりない。
「このは……学びとしよう」
剛毅で明朗快活なアニキは、麻雀に対して人一倍真摯だった。
そして今日、あの赤が手に来た時。
ほとんどのケースで当たらないことを理解し、押し切った先に待っていた赤5pでアガった時。
そこには格別の喜びが待っていた。
「くう~! 頑張って良かったァ……!」
歌衣が噛み締める、トップの味。
それはきっと、初年度のあの時と、一味違う。
麻雀の楽しさを知った日から、それを優に超える程の苦しみも味わった。
上手くいかず、勝てない日々も続いた。
それでも歌衣は、時に監督や強者に教えを乞い、必死に麻雀の勉強を続けてきた。
そしてこれからも、歌衣の学びは続いていくだろう。
学びが活きるという、この最高の喜びを、身体が脳が、覚えている限り。
これは、酸いも甘いも嚙み分けて――
麻雀を“識った”漢の浪漫譚なのだから。
最高位戦日本プロ麻雀協会47期前期入会。麻雀プロ兼作家。
麻雀の面白さと、リアルな熱量を多くの人に伝えるため幅広く活動中。
Twitter:@Kotetsu_0924