まるで、ニュートンの第三法則「作用・反作用」のようなものである。
鈴木優──防御は最大の攻撃──
東4局1本場

優はここからをポンした!

注目すべきは、右からポンと言う事。つまり東家の萩原から放たれた牌に対してアクションを起こしているのである。
更に、残された11枚の構成にも注目したい。内蔵されたドラはわずか1枚。その上、ドラ表示牌となっているカンチャン・カン待ちのターツが、未完成のまま残っているのではないか。
つまり、打点・形とも不安要素のある仕掛けなのである。それなのに、トップ目から親の現物をポン…。
さすがの優も、ここは目一杯の打にせず打
と1枚・安全牌を抱えた。

解説席の河野直也も思わず苦笑をこぼす。
「優選手の解説はよくさせて頂く事が多いので、何を切るか、どこで仕掛けるかはある程度読めるようになってきましたが…… とても真似できませんね。狂気の沙汰ですよ。」
自ら危険な道を選ぶ、その理由はもちろんライバルの萩原の親を自らの力で落とす事。そして、もう一つの理由は…

たとえ、3軒リーチとなろうとも放銃回避する絶対的な守備力に自信をもっているからだろう。

優は3方向から挟まれたこの状況でを選んだシーン。
もし安易に今通った筋を追ってを選択すると、勝又へ一発放銃となっていた。

また、南1局1本場では
メンホン・七対子が狙えそうながらも打。一度切ってある
を手の内に収めると、

一歩引く選択肢を取った。

見逃せないのは、ドラを切っている南家・勝又や北家・萩原の手牌だ。両者ともにイーシャンテン。しかもを受け入れに含む形で、テンパイ目前だったのである。更に親も七対子のイーシャンテンであり、全員に
が危険な状況であった。
こうして、ただ闇雲に押すのではなく、自身の手牌価値としっかり対話しながら、万が一の失点すらも計算に入れる。その慎重かつ冷静な判断力が、優の麻雀を支えている。
これこそが、安定した成績を裏付ける何よりの証だろう。
萩原聖人──魅せる麻雀──
麻雀という勝負において、光を浴びるのはいつも勝者だ。だが、その輝きの裏には、必ず敗者の存在がある。
そして、その敗者がいるからこそ、勝者の強さも美しさも、際立って見えてくるのだ。
東1局1本場
萩原にと
がトイツ、
が1枚の配牌。何か“ざわざわ”させる予感である。
ところが…

中田から1枚目の切られるも…萩原は

この時の心境を対局後に語ってくれた。
萩原
「を一鳴きしてもねぇ。すぐに
切られて2,000点コースが見えちゃう事の方が多いかなと。」
をポンした瞬間に、自らの打点の限界を晒すことになる。そして、それを見た他家が“
”をあっさり処理してしまえば、思惑は崩れてしまう。
だからこそ、は鳴かない。あえて見せないことで、1枚切の“
”を持っている誰かが、「まだ鳴かれない」と判断し、しばらく抱えてくれる可能性に賭ける。

その思惑に応えるかのようなツモ“”で臨戦体制に入ると
流れに身を任せるように、高め大三元テンパイに辿り着く。

“俳優”としての顔を持つ萩原聖人。今は台本なき主演俳優のようだ。そして。ここまで仕事をすれば、後の運命は神のみぞ知るのみ。

役満という最高の主演男優賞までは届かなかった。しかし、それでも彼がこの舞台で見せたのは、記憶に残る鮮やかな一幕だったに違いない。
小三元。打点としては一歩届かずとも、見る者の心にはしっかりと焼き付いた、まさに“演技派”の一コマであった。
勝又健志──勝つために負ける──
チームの状況は、もはや後がないと言っていいだろう。必要なのは、とにかくトップを重ねる事。それこそが、暗闇の中に活路を見出すための、唯一にして最大の特効薬だ。
しかし、この一戦においては、その前進がすべて裏目に出た。前に出れば出るほど、鋭いカウンターが飛んでくる。気づけば、優勢に転じるどころか、負のスパイラルに飲み込まれていく展開となっていた。
南2局