「だ!」
解説席で、パブリックビューイング会場で、あらゆる場所でそれが連呼されたことだろう。
しかし。

ファイナルシーズンの最終日。
マイナス17,200点という追い込まれた状況。
そして、徹底的に攻め抜いた鈴木優という打ち手から放たれるプレッシャー。
それらに気圧されたように、堂岐はを河に並べた。
ただ、堂岐を責めるのは酷ではないだろうか。
他の危険牌をツモったのならいざ知らず、前巡に通ったばかりのが手元にやってきてしまった。
これまで感じたことのないプレッシャーの中で、藁にもすがる思いでに手をかけてしまった堂岐に思いを馳せれば、それも仕方のないことなのかもしれない。

を切った直後の堂岐の表情を見れば、今の精神状態は察するに余りある。
しかし。
そんな隙を、この男が逃すはずもないのだ。

が切られた刹那、優の右手には
が踊っていた。

2夜連続で大仕事をやってのけた男の顔もまた、ギリギリの精神状態であったことを物語っていた。
かくして大きな地殻変動が起こったファイナル15回戦。

パイレーツが見事にトップラスをやってのけて大逆転。
他チームに対して難しい条件を突きつける立場となった。
毎年、最終日にはドラマが待っているMリーグ。
今年も大きなドラマが起こった。
しかし、大仕事をやってのけた優に、安堵や楽観の表情はない。

シャーレの前でいつものように待ち構えるカメラに対し、ただただ頭を下げて応じるだけ。
自分の出番は終わったとしても、鈴木優の緊張感が緩むことはない。
戦いはまだ続いているのだ。
だが、最終戦にはこれぞ麻雀というドラマが待ち構えていることは…この時はまだ知る由もなかっただろう。
残るゲームはあと一つ。
最後に笑うのは、誰だ?