多井隆晴と共有する「時間」【Mリーグ2025-26 レギュラーシーズン 観戦記 1/6 第2試合】担当記者 カイエ

しかし多井【3ピン】ツモでのこの変化が、運命を歪める。
理牌から明らかなように、多井は【7ピン】チーの食い伸ばしにも備えていた。仮に【7ピン】が鳴けると【4ピン】を切って【5ピン】【8ピン】待ち。その【4ピン】を黒沢がポンして打【5ピン】で多井のアガリ。ドミノ式に決まっていた。

だが【6ピン】切りになったことで黒沢はチ-して打【4ピン】【5ピン】が出ない形に。
これぞ日吉の言う、牌の「織り成り」だ。
スリリングな綱渡りのようで、非常に手に汗握るオーラスは続く。

さらに、後のない勝又がタンヤオトイトイで追いつく。連荘は厳しいかと思われた配牌から、よくぞここまで育ったものだ。弟子筋の永井ばかりに良い恰好はさせてられない。

多井、最後の正念場。
いま持ってきたのはション牌の【白】
親の勝又も黒沢もテンパイ濃厚。ライバルの元太は降りている。オリても勝又があがるかテンパイなら続行。しかし黒沢にあがられては2着のまま。一度は大きなリードを築いたこの半荘。トップは喉から手が出るほど欲しい。

勝又は3巡目に【5ソウ】を切っているにも関わらず、【7ソウ】を鳴いている。さらに【6ピン】【8ピン】の切り順で、【赤5ピン】の受け入れを優先していないように見える。以上から分かるのは、食いタンでなくトイトイが濃厚であること(普通のタンヤオなら【6ピン】【8ピン】より残したい)。3巡目の段階で【5ソウ】【7ソウ】【7ソウ】【8ソウ】とあり、いまも手に【8ソウ】は保持されているであろうこと。
勝又がトイトイならこの【白】は危険だ。元太の手がブラックボックスではあるが、黒沢は【發】を鳴いたあと3巡目に【中】を切っている。これは【白】を持っていない確率が高く、その分、勝又に【白】がある濃度が高まっている。

相当、怖かったのだと多井は言う。

勝又の最終手出しは【7マン】で、これは【5マン】がトイツ以上である可能性が高い。【5マン】を複数持っているということは【赤5マン】を持っている可能性も上がっているということ。するとこの【白】が当たりであれば、【白】トイトイ・赤で12000点の放銃になり、トップどころかラス落ちまで見えてしまう。ここまで積み上げてきたものが壊れてしまう。

しかし一方で、場況の良い【2ピン】【5ピン】待ちにも自信がある。あがればトップ。そんな条件、チャンスは、次局以降に巡ってくるか分からない。解説の村上淳も述べていたように、これはただの1000点のテンパイではない。順位点40Pを上乗せできる、役満級のリャンメンテンパイなのだ。

覚悟を決めた者のもとにのみ、幸運の女神は舞い降り、微笑みかける。

前局、己のスタイルを曲げて【南】を1鳴きできなかった黒沢から、僅か数秒後に【2ピン】が放たれた。
僅かに、覚悟の差が現れたか。

逆転でのトップ獲得。
試練を乗り越え、覚悟を決めて、自ら掴み取った。

多井は言う。

自分が平均より打牌に時間をかけているのは分かっている。それを長考が多い、各駅停車だと批判する視聴者の気持ちも分かるし、それは受け入れる。

だが、実際に卓を囲み、極限のような緊張状態で思考を巡らせていると、人間なのだから読み抜けや勘違いの恐怖とも戦わねばならない。読みには自信があるが、それを何度も確認し、慎重を期したい。

たとえば大事な入学試験であれば、定められた時間いっぱい、自分は考える。不格好でも、もがく。
将棋でも、持ち時間が切れるギリギリまでは考えを尽くしたい。時間を余して投了しているようでは、もっと考えることがあったんじゃないかと思ってしまう。それで勝負に最善を尽くしていると言えるのだろうか。

現に与えられた環境設定の下で皆で闘っているのだから、常識の範囲内での思考時間はプレイヤーの権利だろう。仮に持ち時間制や麻雀クロックが導入されれば、むろんそれに従う。

決められたルールや環境のもと、最大限のパフォーマンスを発揮する。
それこそがプロのあるべき姿だろう。

個人的には、元太の【北】トイツ落としや寿人の機械的なリズムのように、心地のよい速断は好みだ。読みというなら、来るべき状況や牌を先読みして、常にあらかじめ対応可能な状態にしておくこともプロの務めであるとは思う。

しかし、オーラスの多井の長考のような、勝負所での、頭がフル回転した、読みの濃密な撹拌を思わせる「時間」は、尊く、心を動かされるものだとも思う。
また、その「時間」を言語化する役割と責務を、実況・解説は負っているのだと思う。

神の視点で観戦している視聴者と対局者とでは、全く感覚も思考も異なっている。
物語のアクターに感情移入するように、もっと熱狂と情熱を持って「観る雀」することができれば、さらに麻雀の愉しみは広がるだろう。

第1試合が長くなり、多井も攻め気味に、なるべく時間を使わないように対局に臨んだと言っていた。守備やオリの時の方が、ゼンツッパよりも考慮時間を費やすため、攻め勝ちになることは自然の要請でもある。己のスタイルに反してまで、視聴者の心境に寄り添おうとするのもまたプロの営為であろう。

局後のインタビューで、多井とのMリーグ初めての同卓への喜びと想いを、元太は熱く、何より楽しそうに語った。少年のような純真さで。プロになって多井の勉強会でいろいろ教えてもらったという、先生のような存在への恩返しと昂揚感。そんな思いもあったのだろう。

先ごろ移籍を発表した堀慎吾の、プロになった当時の情熱やわくわく感への渇望とも、あるいは通じるものがあったのではないか。

まだまだトッププロとして「壁」になる存在であることを示し続けている今シーズン。かつてないハイペースで出場試合を重ねている。
一級品である多井の「読み」を共有できる時間もMリーグ観戦の醍醐味だろう。
その読みの内実を無償で発信しているのも、業界への貢献であり、後世への遺産だ。
多井隆晴と共有する「時間」こそ、得難い体験なのである。

  • この記事が気に入ったら
    フォローをお願いいたします!
    最新の麻雀・Mリーグ情報をお届けします!

  • \近代麻雀シリーズ 新刊情報/