西原理恵子 & 山崎一夫 雀士の持病は呆然痔疾だった!!

雀士の持病は
呆然痔疾だった

 

「リ、リーチだっぺ!」

昔、徹夜麻雀の明け方近く。
負けが込んでいた中年雀士のモッサンが、流局寸前に牌を横に叩きつけました。
よほどの大物手なのか、鼻息が荒くて額に脂汗までかいている。

「怖え~なあ、降り降り」

他家は降参気味です。
一発目のツモに伸ばした手が止まった。

「ダ、ダメだ。誰も見るんじゃねえぞ」

手牌を伏せてトイレに飛び込んだんです。
待っているぼくたちに、時どきトイレから奇声が聞こえてきます。

「うわ~」

「ひぃ~」

 

ふとモッサンが座っていた、濃い茶色の人工皮革のイスの座面を見ると、何やら濡れて光っている。

「汚ねえなあ、洩らしやがったんじゃねえか」

誰かが椅子に白いオシボリを投げたら、なんと真っ赤に染まったんです。
ウォシュレットの無い時代の麻雀打ちには、こんな重症の痔主がたくさんいました。

なので当時の雀荘には、痔の症状を緩和するための、穴の開いた座布団を常備している所もありました。

ぼくらは痔布団と呼んでましたが、今はドーナッツ・クッションと呼ぶようです。
別人で、痔が悪化して救急車で病院に担ぎ込まれた人物もいました。

当時ぼくに小さな中古マンション購入を仲介をした怪しい不動産ブローカーです。
お世話になったこともありお見舞い。

「山ちゃん、入院費を十万円貸してくれないか」

「いいですよ。会計で払っておきます」

「いや、現金で頼む。周りの目もあるし」

自分の不幸をチャンスにしてまで、ギャンブルの軍資金が欲しかったんだと思います。

 

高齢ギャンブラーの
生活費と軍資金捻出方法

 

徹夜麻雀全盛の時代に、痔と並んで多かったのが、ぼくの経験では狭心症。
今よりも喫煙率が高い時代で、雀荘という喫煙率が高い場所に、長時間いるのが原因の一部かもしれません。

「ウッ」

胸を抑えて椅子からズリ落ちそうなのは痩せた銀ブチメガネの銀行マン。

「おう、誰か代走頼む」

そう言って、雀荘に設置してある二段ベッドの上段に潜り込みました。
二段ベッドの上段は、常にタバコの煙が燻されているような状態。

「あれじゃ、銀行マンの燻製だな」

背中を丸めて苦しそうな声を出していたけど、すぐに戦線に復帰して、出勤時間まで打ち続けておりました。

数日後には救急車で運ばれるハメになってしまい、医者からは、

「こんなことが続くと、心筋梗塞になって死ぬよ」

と警告されたそうです。

その銀行マンは特に反省するでもなく、麻雀を打ち続けるのでした。

「今度倒れたら、あの病院にしてくれ。カルテがあるし、美人の女医さんが多い」

実を言うと、かつてはぼくも狭心症と診断されたことがある。

 

「不整脈がありますね。もっと詳しくホルター心電図を録りましょうか」

「ホルダー心電図?」

「ホルター(Holter)です。今から24時間の心臓の動きをこの機械に記録します。
風呂はダメですが、それ以外は普通に生活できます。 SEXもかまいませんが、何時から何時までだったか、どれくらいの運動量だったか記録に残ります」

 

誰がするか!

 

翌日は記録を見ながら診断です。

「ここで3分くらい動悸が激しくなってますね。これはもしやナニですか?」

 

舐めとんのか!

 

「冗談冗談。山崎さん、狭心症を直したければ、禁煙して運動をすることです」

 さっそくアドバイスどおりにしたところ、幸運にも1年ほどで完治。

 

 禁煙はそれまでに何回か失敗していたんですが、このアドバイスとある禁煙本のおかげで、成功しました。

 フリー雀荘(古くはバラ打ち)には色んなギャンブラーが集まって来ます。
 通称おじいちゃん、と呼ばれてた、すごく元気なおじいちゃんもその一人。
(すみません、いいかげんなナニで)

「こ、これはリーチだな」

 小柄で吃音気味のおじいちゃんは、週末だけ現れて時には2日連続の徹夜麻雀を楽しんでおりました。

「きっと、どこかの金持ちのご隠居さんなんだろう」

 

 その当時は、コンビニエンス・ストアやファミリー・レストランが大量に出店をし始めた時代で、それらにビルや土地を提供してる金持ちの遊び人がたくさんいたんです。

 おじいちゃんは想像どおり、ビルのオーナーだったけど、生活の拠点は病院。
 病気でもなんでもないんだけど、若いころからの知り合いの開業医に頼まれての偽装入院。
 病院で衣食住のめんどうを見てもらって、病院は国から保険料を貰う、というカラクリだそうです。

 おじいちゃんの自慢は、不正に取得した身体障害者手帳を持っていること。
 詳しくは聞いてないんですが、どうやら色んな社会的サービスが無料だったり割引になるらしい。

 

「今は3級と軽度なヤツじゃが、近いうちに2級が取れる。いつか1級に挑戦する」

 

  じじい、英検じゃないぞ。
 チョロまかしたお金も、やがてギャンブルに消えて行く運命。 このビョーキだけは直りそうもありません。、

(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2011年10月15日号)

●西原理恵子公式HP「鳥頭の城」⇒ http://www.toriatama.net/
●山崎一夫のブログ・twitter・Facebook・HPは「麻雀たぬ」共通です。⇒ http://mj-tanu.com/

さいばら&山崎の でかぴん麻雀入門は毎週水曜更新!!(次回は1月30日更新予定)