中央線アンダードッグ 第1話【長村大 連載小説】

中央線アンダードッグ

長村大

 

 

 

2000年代、都知事・石原慎太郎の大号令のもとに行われた歌舞伎町浄化作戦によって、街は大きく変貌した。我が物顔で道を闊歩していた稼業者はめっきり減り、違法DVD屋やノミ屋、裏カジノは軒並み検挙された。交番の真ん前で堂々営業していた脱法ドラッグ屋ももちろんなくなった。

再開発も大きく進み、ミラノ座も噴水もなくなった。

驚くべきことに、コマ劇場もなくなった。跡地にはホテルや映画館、パチンコ屋などが入った大型商業ビルがそびえ立ち、律儀な屋上のゴジラは、外国人観光客のための定時の咆哮を欠かさない。

 

雀荘もだいぶん、数を減らした。

浄化作戦よりもっと前の話にはなるが、往時は千点200円の東風戦の店がそこら中に看板を出し、どの店も大きく繁盛していた。しかし某有名漫画家が逮捕された件あたりから雲行きが怪しくなる。それ以来「千点200円はダメ、東風戦もダメ」という認識になったらしく、ほとんどの店は千点100円の条件付き東南戦に鞍替えした。「条件付き東南戦」とは「誰も27000点ないと南入」みたいなやつで、事実上は東風戦である。

コマ劇場のすぐ隣に、大手チェーンの系列店があった。清潔感のある店内、従業員の教育もしっかりいていて、サービスも行き届いていた。なによりその店は大手チェーンにも関わらず、「条件付き東南戦」ではなく「東風戦」を続けていた。おそらくは絶対に警察に挙げられない自信、あるいは理由があったのだろうし、客はそういうところに敏感である。時間によっては、満卓でさらに待ちが出るほど繁盛していた。

 

ところが、その店が挙げられた。理由はいろいろと噂が流れたが、結局のところはよくわからない。ただ、とにかく挙げられてしまったのだ。

今にして思えば、これは歌舞伎町の雀荘事情をひどく象徴した一件であったかもしれない。もちろん折からの不況や、少し後のリーマンショックなどの社会情勢もあるが、このあたりから加速度的に、ある程度以上のレートのフリー雀荘が減少していったように思う。

だがしかし、今も東風戦の店は生き残っている。昔からの店が数軒、新しい店が数軒。

客層も変わった。

ホスト金貸しノミ屋チンピラ詐欺師ブローカー、いつもブラブラしていて生業はよくわからないが金は持ってる、みたいな奴が昔はいっぱいいた。今はそういう奴はあんまりいない。普通に金持ちの年配と、腕に多少の自信がある若者が主だろうか。昔も今も、いわゆる「カタギのサラリーマン」は少ない。

 

靖国通りから、さくら通りに入る。それを突き当たりまで行き、花道通りを渡って、老舗有名ホストクラブを右手に見つつさらに歌舞伎町の奥に進む。しばらく行ってバッティングセンター方面に左折したすぐのところにある雑居ビルの3階に、「プラスツー」はある。ピンの3-6で赤牌3枚が1000円、プラス金が1枚入って2000円。歌舞伎町の東風戦でも、比較的高いほうであろう。

 

 ドラ

 

ラス半コールをかけた、オーラスである。

現在三着目だが、上から下まで競っており3900アガればトップ。絶好の手牌なのだが、難しい局面でもあった。

 

 

 

ラス目の上家からリーチがかかったところなのだ。チーして現物のを切る、それは決まっている。しかし、どうチーするか。カンチャンで鳴けば

 

  

 

リャンメンで鳴くと

 

  

 

どちらのイーシャンテンとするか。前者はリャンメンとサンメンチャン、後者はカンチャンシャンポン含みだが、ポン材が残るメリットがある。受け入れ枚数はどちらも一緒だ。

少考して、前者、つまりカンチャンチーとした。後者を選択した場合、マンズが先に埋まった場合の待ち選択が難しい。また、ピンズはと金、2枚の祝儀牌があるので、よりの方が押しやすいと判断した。

次巡、ツモ

 

  

 

絵に書いたような裏目である。リャンメンで鳴いておけばこれでテンパイであったが、そんなことを言っても詮無い、打

 

「ロン」

 

上家から声がかかる。