末井昭さんついに
白夜書房を退社
「本日、会社に辞表を出しました。退社は2か月後です」
末井さんがtwitterで退社を発表すると、たくさんの作家やファンからコメントがありました。
漫画家の蛭子能収さんもその一人。
「昨晩手塚さんから末井さんが白夜書房を辞めることを聞いて驚いてます。先日所沢の家を片付けていたら、写真時代がいっぱい出てきました。もちろん永久保存です」
鉄のゲージツ家クマさん(篠原勝之さん)は。
「スエー!いよいよ会社から離れるだね、オメデトさん。自殺シリーズに磨きがかかるね。楽しみ」
末井さんが創刊した「パチンコ必勝ガイド」関係者からのコメントも多かった。
「末井さんお疲れさまでした。末井さんと出会わなければ、大崎一万発もいませんでした」
末井さんは一万発さんの元上司で、名付け親でもあるんです。 私もコメント。
「お疲れさまでした。温泉でも行きましょう」
ペーソスのライブで末井さんに直接聞いたところ、関連会社や他社に移籍は無しで、先のことは何も決まっていないそうです。
「決まってるのは、ペーソスのサックスくらいかな」
末井さんは「パチンコ必勝ガイド」以前に「写真時代」という伝説のサブカル雑誌を大ヒットさせたことでも有名です。
「まあ、エロ本なんだけどね。読者が買いやすいように写真誌コーナーに置けるようにした」
末井さんは謙遜しますが、「超芸術トマソン」などの企画は、今も語り草で根強いファンも多い。
ネットで検索すると、たくさんの「純粋階段」などの投稿がヒットします。
「末井さん、これどう?」
当時バーでいっしょに飲んでいる時に、私が深夜の自宅マンションのエレベータ前で撮った写真を見せました。
「何これ?」
床に置いた黒い大型バッグから白い煙が出ていて、一見危険物のように見えます。
実は中に入っているのは炊飯器。おそらくホームレスでしょうけど、深夜にゴハンを炊いていたんです。
「おもしろい、写真時代に載せていいかな」
末井さんは、読者といっしょ雑誌作りを楽しんでいるようでした。
もちろん作家との共同作業も同じです。
南伸坊さんの「笑う写真」(滝本淳助さん撮影)は、出版の企画が自社で通らなくても他社で出してしまう。
「依頼する作家さんには、一種の恋愛感情を持ってるね」
当時売り出し中だった、アラーキーこと荒木経惟さんとは、仕事なのか遊びなのか分からないような、ヌードや風俗写真を、自分もモデルになって撮っていました。
大ヒットした「写真時代」でしたが、エスカレートするヌード写真が問題になり、廃刊に追い込まれてしまったんです。
必勝ガイドを創刊
ギャンブルにハマる
「山ちゃんギャンブル詳しかったよね。パチンコの企画何か無いかな?」
末井さんは廃刊にめげず、今度はパチンコ雑誌を創刊することにしました。
「クギ師を紹介しましょうか。前に働いていた店に、定期的にクギを叩きに来てた人です」
今と違って、当時は専門のクギ師がいた時代です。
「山ちゃんも何か書いてよ」
後に銀玉親方として仕事をするようになるキッカケで、今も親方なのはその名残です。
末井さんはたちまちパチンコにのめり込んでしまい、パチンコ店に通い詰める毎日。
やがて勝てるようになるんですが、当時の末井さんの給料に比べると、勝ち金額は決して大きくはありません。
それでも、ギャンブルはおもしろいんですね。
末井さんはこの時のパチンコ体験を書いた本を、またしても他社から出版しました。
社長が寛大なんですね。
末井さんは、さらに刺激を求めて、競馬や競輪や麻雀やカジノにもどっぷり。
「命の次に大事な金を賭けるんだから、お金が無くなる時は、はまるで死の疑似体験だね」
というほどの高レートです。
さらに、株式投資に商品先物取引、不動産投資にまで手を出して億単位の赤字。
「臨死体験を何回もした」
完全なギャンブル依存ですが、その資金力と精神力と回復力には脱帽です。
西原理恵子さんは、ギャンブルから脱出するのに、夫の鴨志田穣さんの影響があったそうです。
末井さんも新しい奥さんの神蔵美子さん(カメラマン)の存在が大きかったようです。
とはいうものの、今でもパチンコは毎日打ってるし、麻雀も定期的に楽しんでます。
末井さんは、いったん仕事仲間として付き合いが始まると、仕事上の縁が無くなっても、長く交流している人が多い。
「写真時代」が廃刊になってから二十年以上たちますが、荒木経惟さんの「月例ポラロイド写真店」では、島本慶さんのボーカルと共に、サックスを演奏してます。
退職してもじっとしてるような人ではないので、またなんか夢中になれる事を始めるんだろうと思います。
(文:山崎一夫/イラスト:西原理恵子■初出「近代麻雀」2012年10月1日号)