中央線アンダードッグ
長村大
第59話
親だ。
今一度、卓の表示で持ち点を確認する。
東1局のハネマンで得た点棒を堅く維持しているカジが46600点、親番での満貫と3秒前におれからアガった満貫で38400点の2着目にプロがつけている。おれが三番手で21700、漫画家がハコ下6700点。
やることはだいぶ見えてきた。
カジとプロはおれの親を落とすことが最優先。これが落ちればオーラス倍満ツモでも届かない、ほとんどノーチャンスになる。
漫画家にアガれる手はほとんどない。少なくとも三倍満以上、現実的には役満を狙わざるをえなくなるだろう。もちろん可能性はあるが、どちらかといえば負ける形を作っていくことになる。
そして、おれだ。
おれはとにかく連荘するしかない。高いに越したことはないが、それよりも速さが重要になる。いずれにしろ、配牌を願う。
ドラ
この14枚。良いとは言えない。とりあえず仕掛けてアガるのは難しそうだ。
第一打にを選ぶ。孤立牌のやよりも、まずは表示牌ので目いっぱいに受ける。次巡、ツモで打。役牌が重なる期待よりも、相手に重なる前に切りたい。そのほうが相対的なスピードは上がるし、漫画家が字牌を集めている可能性も高い、重なったとて鳴けるかどうか。
幸いにもツモが効いた、その上に相手も遅いようで、誰からもポンチーの声がかからないままに中盤になった。
ツモ ドラ
一気通貫のイーシャンテンから、どうするか。
当然ドラ切りとした。ドラは自分が重ねたいだけで持っていたのだ、相手に鳴かれれば、満貫だろうが千点だろうが同じことだ。だが、これも誰からも声がかからなかった。
次巡、ツモ。これだ。
ツモ ドラ
1秒でも早くかけたかったリーチを、ようやくかけられる。しかも手役までついて最高の形である。河も比較的強い。
向かってくる者はいない一人旅。おれ以外の全員がオリている、さすがに連荘はできるだろうが、打点のチャンスでもあるのだ、高目でアガりたい。
トイメンのカジが、珍しく考えに沈んだ。
打。ション牌である。ここまで当たる可能性のない牌しか切っていない、来ているのか、もしくは安全牌に窮しているのか。
次巡も続けてを切る。やはり安全牌がないのだ。
おれのツモは、ツモ切り。
か、と思う。あるいは。
またもやカジの手が止まった。
やはり、あるいは。
数秒のち、が河に放たれる。やはり、か。
ほんの刹那、考えた。
直撃とはいえ最安目の2千点。もちろん裏ドラが乗る可能性はある。
だが残り数巡、流局すればほぼ一人テンパイだろう。アガれる者はいない。ならば2千点アガるのも流局も同じだ、ツモアガリに賭ける手はある。差は大きい、詰められるチャンスは逃したくない。
おれは無言とした。見逃しである。
次巡、初物をツモ切り。カジも合わせ打ち、やはりオリている。ツモ番は残り3回だ。
自然、ツモる手に力が入る。そんな行為が無意味なのはルールを覚えた瞬間から知っているし、あるときは馬鹿にさえしてきた。なんだ、おれも結局同じ馬鹿ということか?
最後のツモ、盲牌などせずに、できるだけ軽く、ひょいとつまんだ牌を目視で確認する。ほらな。
「ツモ」
ツモ ドラ
裏ドラはなかったがメンピンツモ三色の満貫、4千オール。
まだ届きはしない、だが差は1万点を切った。もう、ひとアガリだ。
東1局のカジもフリテンリーチだったが、流局した。おれはアガり切った。もちろんその過去との間に相関はないし、3分後の未来に繋がる吉兆──あるいは凶兆──を見出すこともできない。