近藤誠一徹底分析 「事務局の人」から「卓上の阿修羅」へ【熱論!Mリーグ】

熱論!Mリーグ【Tue】

近藤誠一徹底分析

「事務局の人」から

「卓上の阿修羅」へ

文・ZERO【火曜担当ライター】2018年10月23日

 

近藤誠一徹底分析

20年近く前の話。私は最高位戦に所属していた。 当時、一番お世話になったのが 近藤誠一プロだ。 当時から近藤は人当たりが良く、誰からも好かれる素晴らしい人物だった。 ただ、私が抱いていたのはどこまでも「事務局の人」というイメージであり、事務局員として、各リーグの運営にあたり、東西奔走している姿が今でも記憶に残っている。 何度か同卓させてもらったが、キレイにそつなく打つものの、今ほど踏み込みが強いわけでもなく、特徴があるわけでもなく、失礼ながら麻雀の印象は薄かった。 近藤自身もそのような自分の状況に耐えられなかったのか、

 

「私は事務員をやるために

麻雀プロになったわけではない」

 

と事務員を辞め、麻雀1本に絞った。 最高位を連覇を含む3回獲得、モンド名人戦連覇…その後の活躍を列挙すると長くなってしまうので割愛するが、昔の近藤しか知らない私にとっては、モニター越しにみる近藤はどうしても人が変わったように見えてしまう。阿修羅の形相で場をみつめ、高打点を作り、そして強烈に踏み込んでいるのだ。

 

…ただ、である。近藤の「大きく打ち、大きく勝つ」打法は、Mリーグの赤入り麻雀にマッチしないのでは?という懸念も持っていた。平均アガリ巡目をあえて遅らせ、押し返せる手を作って勝負する雀風では、速度と手数でどうしても勝てず、結果ジリ貧になってしまう。

 

私の稚拙な予想は当たるのか、そしてその予想が当たったとき、近藤はどう対応していくのか…そんなことを考えていたら今日の対局は始まった。 東二局の親番… 近藤はこの手で、直前に下家から切られたをスルーしている。 既に14巡目、親という事もあり、鳴く人も多いのではないだろうか。 近藤の思考は「親だからテンパイとり」ではなく「親だからスルー」なのだと思う。親の価値は連荘ではなく打点である。次に先手の打てる手牌がくるとは限らない。ならば今、目の前の手牌を最大限アガリに近づけることが利益の最大化になるのでは…という思考だと思う。だからこそ、近藤は ノーテンのまま生牌のドラを叩き切り… そしてテンパイするや、なんのためらいもなく牌を横に曲げた。 近藤にとっては「あと2巡しかない」とか「捨て牌が派手」だとか「赤が見えていない」とか、そういったことは関係ない。

「決定打率」

結果的に流局してしまったが、何回かに一回は必ず4000オールや6000オールとなり、その世界線ではトップ率に大きく貢献するだろう。その貢献度を考えると、近藤の多少強引な踏み込みも、実に理論的に思える。 トップに大きなボーナスポイントのあるMリーグのルールでは、これくらいの強欲さがちょうどいいのかもしれない。 一本場となったこの局も実に近藤らしい。4巡目のこと。 この手牌、ほとんどの人がをツモ切るのではないだろうか? しかし近藤のしなった左手は を打ち出していた。 現状イーシャンテンでというリャンカン部分は、受け入れ枚数でいったらリャンメンと変わらない。そしてがうまく横に伸びても打点があがるわけでもない。うまくいけばイーペーコーがつくが私を含む、現代の人はいくら考え直してもを切りそうだ。の裏目が怖すぎて次のツモを見たくない(笑) しかし近藤は、とにかく「押し返せる手」を作ることを重視している。リャンカンは、テンパイするまではたしかに2種類の受け入れをキープできるが、テンパイしたらカンチャンになる。それでは強く踏み込めない。を切ってリャンメン変化を最大限残すのが近藤のフォームなのだろう。この近藤の選択がハマる。 を鳴き、と払いきったところでが「やぁ」と帰ってくる。これをホールドして打 さらにまで「やぁやぁ」と帰ってきて、カンテンパイ。 さらにが「お初ですぅ」とやってきて、さっき通った待ちに。 これに飛び込んだのが瀬戸熊だ。 これは仕方ない。どうみても直前のはスライドに見えてしまう。 は上家のを鳴いていないので除外、あるとしたらシャンポンかカンチャンだが、早めにが切られていることによって、シャンポンはなさそう。カンチャンも同様だ。あとからが出てきたのに、その前にカンに決めていたとは考えにくい。 もちろん近藤はこうした効果を狙って打っているわけではないと思うが、結果的に「人とは少し違う打ち方をする近藤のスタイルが、周りの読みを少しずつ外している」ことは事実だ。 悲しい表情…。 この日、この放銃をした瀬戸熊に「クマクマタイム」が訪れることはなかった。

気分の良いアガリをした近藤の手元に、チャンス手が舞い降りる。 ホンイツもチャンタも見えるこの手、近藤は下家のをスルーしている。 「大きく打つ」スタイルを周知させている近藤がこれをポンすると、残りの字牌は抑え込まれる公算が高い。逆にを鳴いた後の1枚切れのなら、出てきてもおかしくはない。私だったら下家から出たという事で鳴いてしまいそうだが、私が近藤誠一だったら鳴かないだろう(笑)それくらい「自分がどう思われているか」という要素は重要なのである。 手は進まず迎えた8巡目。 ここで近藤は安全牌のを持ってを切る。これは微妙なところだ。これまでの対局をふりかえっても、近藤はチャンス手がきたときに、このようにスリムに構えることが多い。 そして10巡目。 このもツモ切ってしまう。次にオタ風をポンしたときに、捨て牌からピンズのホンイツが本線になるように、という意図だと思う。実際は盲点になり、これで12000点と言われたらショックで夜も眠れない。実にやりづらい打ち手だ。次に近藤と同卓したときは下手に捨て牌を見ないようにしよう、そうしよう。 近藤マジックに麻雀IQ220という呼び名の勝又のコンピューターも狂わされてしまう。 この手牌から、やや変則手にみえる下家の近藤の捨て牌を睨みながら長考。吸い込まれるようにを打ってしまう。 そのを近藤がチーした2分後… 静かにを置いて4000オールを決めた。 (ドヤッ)

次局も目を疑ってしまった。 ドラがで、何を切るか。私なら深く考えずにタンヤオをみてを切るだろう。場況的にも良さそうだ。 しかし近藤が選んだのはだった。アガリ率や牌効率よりも、イッツーやその先に見えるチンイツのルートだけは消さないように打っている。「大きく打つ」麻雀の真骨頂である。 そうこうしていると… テンパイした。しかしどうやら近藤の住んでいる世界では「リーチのみ」はテンパイと言わないらしい。 親の先制リーチが牽制効果抜群なことは百も承知で、惜しげもなくを切ってテンパイを外した。その後、をツモってきてペンのテンパイを果たすがリーチは打たず。瀬戸熊に1000点の放銃となったが、トップ目に立った後はこういう打ち方の方が安定するのかもしれない。 次の局は勝又が面白かった。 目を覆いたくなるような配牌。半端にドラ入りメンツができているのが逆に憎らしい。勝又も半ばあきらめ気味に、遠巻きにホンイツと国士をみてから打ち出した。 中盤、放銃しないように危ないところから切り、字牌をため込んでいる。しかし流局が近づいてくるや このをチーしてケーテンダッシュ。捨て牌をみればわかるが、一段目は派手に中張牌から切り出して字牌をためこみ、二段目は用意していた安全な字牌を打ち出しながら形を整えているのがわかる。 結果的に一人テンパイを勝ち取った。 良カードを大富豪に持ってかれ、しょんぼりしているところで革命が起きて逆転勝利。 あの配牌で一人テンパイとは、これくらい嬉しい現象であろう。 最後に紹介するのが南2局の近藤の親番。 トップ目の近藤はこの手牌を持ち、連続で打たれたを当然のようにスルーしている。はたしてこのおじさんは「1500」という言葉を発したことがあるのだろうか。トップ目だろうとラス目だろうと親番では特に「大きく打つ」のが基本フォームなのである。 続いて5巡目。 これ、知っている。私もどちらかというと親では「大きく打つ」タイプだ。2枚切れているを切ってタンピン、上手いこといけば三色ってやつですね!近藤さん!
しかし近藤が打ち抜いたのはだった。 ずっこけてしまったが、なるほど。345か456の三色になった時に、唯一の頭であるは貴重だ。を先に切る手はあると思うが、が入った時にそこでのトイツを落としてタンピンに向かうルートも残したのだろう。たしかにここでを切ると三色に遠ざかる感じはある。 もくろみ通り、こう持ってきて近藤お家芸の切り。 結果的に石橋からリーチが入ってオリることとなってしまったが、ただただタンヤオにするだけが「大きく打つ」ってわけじゃないんだぜ?ZEROさんよ?と学んだ一手だった。 この半荘、勝又と石橋が追いすがるが、結果的には近藤が逃げ切りに成功した。 インタビューでこの笑みである。

 

 

15年前、都合により、私は最高位戦をドタキャンするように辞め、近藤さんにも多大な迷惑をかけた。

最近、縁があってお会いし、当時のことを詫びたときのことだ。近藤さんは、このインタビューの画像と同じような笑みをたたえ、こう言った。

「ZEROくんが無事で、そして麻雀を辞めていなくて何よりだよ」

私が迷惑をかけたことに関してずっと気にしていることを見抜いて、逆にそれを心配してくれていたのだ。差し出してくれた手はとても温かく、そしてこの日の麻雀のように大きかった。卓を離れた近藤さんは、私の知っている近藤さんで、ひどく安心した。

近藤さんの大きな麻雀はトップ取りのMリーグに向いているかもしれない。実際、既に個人3勝目である。少しずつ調整が必要になる時が必ず訪れるだろうが、幹となる大きな麻雀は貫いてほしい…と勝手ながら、そう思ってしまった。 これからも近藤さんの大きな麻雀は、Mリーグに様々なドラマを起こすに違いない。そして私はその背中を最後まで応援することだろう。

(近藤+54.0/石橋+13.2/勝又-15.2/瀬戸熊-52.0)

ZERO(ゼロ)

麻雀ブロガー。フリー雀荘メンバー、麻雀プロを経て、ネット麻雀天鳳の人気プレーヤーに。著書に「ゼロ秒思考の麻雀」。現在「近代麻雀」で『傀に学ぶ!麻雀強者の0秒思考』を連載中

【関連記事】

Mリーグの魔物がもたらした萩原聖人の変化【熱論!Mリーグ】
高宮まり、魚谷侑未は “亜樹・黒沢”世代を 超えられるのか【熱論!Mリーグ】
女たちの “2100秒の攻防” Mリーグ女流大戦勃発!【熱論!Mリーグ】
もしも麻雀がなかったら…一途な最速マーメイド 魚谷侑未の覚悟【熱論!Mリーグ】
俺たちの恋人 二階堂亜樹と過ごす史上最長の夜【熱論!Mリーグ】
ブルドーザー・前原、変幻自在・園田 それぞれの持ち味を長考しながら堪能する夜【熱論!Mリーグ】
狙うは白鳥翔の首ひとつ! 渋谷ABEMAS包囲網を敷け!【熱論!Mリーグ】
二階堂亜樹、メンタル崩壊…舞姫を狂わせた近藤誠一の禁じ手【熱論!Mリーグ】
“多井隆晴vs朝倉康心”新旧エース同士の世代闘争勃発!【熱論!Mリーグ】
白鳥は水面下でもがいているからこそ“リア充”に見える【熱論!Mリーグ】
麻雀攻めダルマ・佐々木寿人はこのまま終わってしまうのか【熱論!Mリーグ】
私の名前は石橋伸洋 赤字は垂れ流さない【熱論!Mリーグ】
まさにMリーグインフェルノ! オデが見た開幕戦の舞台裏【熱論!Mリーグ】
身内がMリーガーになった件 二階堂、前原、白鳥ら怪物たちと闘う弟【熱論!Mリーグ】
少牌、役満テンパイ…滝沢和典は本当に復活したのか【熱論!Mリーグ】
見た目は大事 Mリーグ・チェアマン藤田晋の著書「仕事が麻雀で麻雀が仕事」が記すビジネスの真実
Mリーグの船出 21人のプロ雀士に求められるもの【熱論!Mリーグ】
Mリーガー白鳥翔プロ【独占手記】開幕直前の胸中を綴る!
「Mリーグ」とは甲子園・春のセンバツ高校野球です 開幕直前、特別観戦記
サイバーエージェント・藤田社長がMリーグへの想いを語った「麻雀プロという職業を夢のあるものに変えたい」