【麻雀小説】中央線アンダードッグ 第50話:決意【長村大】




中央線アンダードッグ

長村大

 

 

第50話

 

カナイが帰り、またソカベと二人になる。

「おい」

「ん?」

「勝手に人の居所をバラすんじゃあない」

「ハハ、ごめんごめん。たまたまなんかの打ち上げでカナイさんに会ってさ、『小山田さんて知ってますか?』って聞かれたんだよね。だから『毎日ヒマでうちに来てますよ』って」

それをやめてくれと言っているのだ、まったく言い訳になっていない。毎日ヒマも余計だ。

「いやこないださ、mjリーグの話したら珍しく少し興味ありそうだったじゃない? また競技麻雀でもやりたいのかな、と思ってさ。それならT書房と繋がってても悪くはないでしょ」

「そういうわけでもないんだけれど……まあでもそうか、ありがとう」

咎めようとしたら、なぜかこちらが礼を言うことになった。「大きなお世話だバカ」とは言えない。

その話はそれで切り上げ、あとはまた普段の与太話に戻った。

おれの予想はさらに外れ、入れ替わり立ち替わり客が訪れた。ほとんどが常連、顔見知りの連中で、いわゆる世間話に花が咲く。その場を楽しむための他愛のない会話、泡のように消えていく時間、その中にもまれに気付きや学びはある、だがそれもまた馴れ合いに他ならない。そしてその場所を、時間を心地よく思う自分がいる。いつからそんな風になったのか、なってしまったのか、あるいはできるようになったのか。浮世の摂理? いや違う、おれの甘えだ。おれはこれまでと覚悟固めて崖を海へと飛び降りようとした、あるいは飛び降りたか? そんなことはしたことがない、いつも流されるようになにかに甘えて生きてきた。悪いこととは思わない、人生のどこか好きな時間に立ち戻れるとしても、いずれ同じようなことになるだろう、その確信はある。

だがここ何年か、それでいいのかという思いをずっと抱えている、馴れ合いこそおれが忌み嫌っているはずのものではなかったか。嫌悪し、戦うべき相手ではなかったか。

ウイスキーの酔いでグズグズになった脳みそでそんなことを考えながらソカベに会計を払い中央線に乗り込んだ、こんなことを考えるのはカナイの話を聞いたからだろうか、だがカナイの話とおれの思考になにか関係があるだろうか。考えてもよくわからなかったので、布団に倒れこんで睡眠の世界に逃げ込んだ。

 

翌日、テンゴの雀荘に遊びに行ってみた。特に理由はない、ヒマだったのだ。

座ってすぐの東1局、好配牌をもらった5巡目である。

 

 ドラ

 

タンヤオ赤2枚のイーシャンテン。ここに上家からが打ち出された。

「ポ……」

喉元まで出かけた発声をなんとか押しとどめ、ツモ山に手を伸ばす。

普段の東風戦ならば間違いなくポンテンに取るだろうが、テンゴの麻雀は違う、鳴かないほうが良い。

正確に言えばレートの問題ではない、祝儀比率の問題だ。

東風戦では赤牌の祝儀は千円、つまり1万点相当だが、テンゴならば百円、2千点相当にしかならない。まだ5巡目、鳴いて3900のテンパイよりも、メンゼンで高打点を目指したほうが理にかなっている。

次巡、ツモ、さらにをツモってテンパイ。

 

 

もちろんを切ってリーチとした。ダマテンでも満貫以上が確定しているが、東1局の7巡目でこれをリーチしないのはヌルい。高めツモなら倍満まであるのだ、狙えるときに狙わなければならない。

中盤に親から追いかけリーチが飛んできて少しもつれたが、首尾よく高めのをツモアガって倍満。どうせアガるならリーチ棒のオマケ付きのほうが良い、このアドバンテージを生かしてそのままトップで終えた。

 

若いころだったら鳴いていたかもしれないな、と思った。愚形を処理して3900のリャンメン待ち、悪いわけではない。どんな高い手でもイーシャンテンではアガれない、テンパイが偉いことに間違いはない。どちらが正解かとは関係なく、やはりおれも変化しているのだ、間違いなく。

そういえば、東南戦など打ったのは何年ぶりだろう。あの、寂れた観光地で働いていたとき以来だろうか。ならば十数年ぶりということになる、理由なくフラっと入ったつもりだったが、わざわざそんなことをしたのにはなにか理由があるはずだ。

 

スマートフォンを取り出し、昨日カナイにもらった名刺に印刷されている番号に電話をかける。

「お疲れ様です、昨日お会いした小山田ですが」

「ああ小山田さん。それで、どうでしょうか?」

「……ぜひ、出させてください。よろしくお願いします」

「ありがとうございます! では詳細は近いうちにお伝えします」

カナイの明るい声には屈託がない。それを聞いて、おれも少しだけ気が楽になった。

そして、一つの大きな決心をしたのだった。

 

 

第51話(9月28日)に続く。

この小説は毎週土曜・水曜の0時に更新されます。

 

長村大
第11期麻雀最強位。1999年、当時流れ論が主流であった麻雀界に彗星のごとく現れ麻雀最強位になる。
最高位戦所属プロだったが現在はプロをやめている。著書に『真・デジタル』がある。
Twitterアカウントはこちら→@sand_pudding