見知らぬ土地で軽い気持ちで付き合った相手と軽い気持ちで結婚した。
もしあの時に戻ることができるなら往復ビンタを6億回してでも結婚することを止めるだろう。人生に於いて無駄なことは何一つないというがあの結婚だけは無駄だったと言い切れる。
あまり悪く言うと百恵ちゃんのイメージダウンに繋がるので詳細は割愛させてもらうが相手方に多額のダマ借金があり、百恵ちゃんは一緒に借金を返す為にお金を稼がなくてはならなくなった。
大手自動車メーカーの工場作業員、いわゆる『期間工』として入社することになった。しかしこの期間工という仕事、給料はいいのだが地獄の様な仕事だった。
百恵ちゃんはハイブリッド車のミッションを製造する部署に配属された。
とにかく肉体的にキツイ仕事で入社当時の26キロだった百恵ちゃんの握力は1年後には41キロにまでなっていた。おそらく借金を被っていなければ3日で辞めていたと思う。
肉体労働でボロボロになるまで働き、自分に関係のない借金を返す。死んだ魚の眼をしながらそんな生活を続けているとある転機が訪れた。
いつも工場内をフラフラ歩いてる謎の偉い人から声を掛けられたのだ。
「趣味は?」
と聞かれ、お姉ちゃんとの修行の日々を思い出し
「麻雀です」
と答えると一瞬キョトンとしたのち
「そっか。わかったよ」
と言ってどこかに行ってしまった。百恵ちゃんが滑ったみたいでイラッときたがすぐに忘れて仕事に戻った。
数日後また働いているところにやってきて麻雀大会のプリントを渡された。参加しているのは役職がついている人ばかりだったが臆することなく参加することにした。
最初こそ緊張したが百恵ちゃんはコミニュケーション能力にも長けているのですぐに打ち解けた。その後も他部署であろうが重鎮であろうが全部の麻雀大会に参加した。
そしてその中に人生を変えた人物がいた。
最高位戦北海道本部の事務局長である。
何度目かの麻雀大会のあと、麻雀大会に声を掛けてくれた謎の偉い人と事務局長に
「最高位戦のプロテストを受けてみないか」
と言われた。百恵ちゃんは即座に
「嫌です」
と答えた。非常にめんどくさそうだったからである。特に野心もなくのらりくらりと生きてきた百恵ちゃんにとっては新しいことをはじめることに抵抗があった。
しかし二人は全く聞く耳を持たず
「拒否権はないよ」
と過去問を渡してきたのだ。自動車工事は縦社会なのだ。拒否権を取り上げられた百恵ちゃんは仕方なく勉強をはじめた。
それからというものは仕事以外は麻雀の勉強漬けの毎日を送り、色々と苦難はあったが無事にプロテストに合格した。
次回は12月26日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!