ユニバースは忘れない
最高の笑顔で過ごせた
火曜日の夜を
文・ZERO/沖中祐也【火曜担当ライター】2022年3月1日
【第1試合】
東家:日向藍子(渋谷ABEMAS)
南家:瀬戸熊直樹(TEAM RAIDEN / 雷電)
西家:松ヶ瀬隆弥(EX風林火山)
北家:沢崎誠(KADOKAWAサクラナイツ)
本来は、もう牌すら見たくなかったのかもしれない。
チーム雷電である。
例年なら盛り上がりが最高潮に達するレギュラーシーズンの終盤戦、残り7日を残したところでセミファイナル進出争いの大勢は決まりつつあった。
むろん、麻雀だから最後の親番が落ちるまで無限の可能性はある。
しかし残り8試合、平均12万点くらいのトップを8連続で取ればようやくうっすらと可能性が見えてくる… というくらいには非現実的な状況だ。
ボクシングならタオルが投げられているし、高校野球ならとっくにコールドゲームである。
それでも雷電にはまだ8試合残されている。
普通の打ち手だったらもう耐えられず、ふさぎ込み、試合に出たくないと思ってしまうはずだ。
しかし、雷電の4人は決して弱音を吐かない。
黒沢は常に明るくファンと交流しているし、瀬戸熊も半荘が終わる度に反省しつつも前を向く言葉を発信している。本田が素直に悔しさを滲ませれば、萩原は「たとえ無様でも最後まで生き様を見せつけよう」とチームを鼓舞する。
今夜も、たとえ「非現実的な目標」だったとしても、それに向かって打つ様をファンに見せつけようと
瀬戸熊直樹がいつものように己の頬にムチを打ち、暗闇に浮かぶリングへと向かった。
勝ちたいと思う気持ちは、シーズン初戦と同じ… いや、それ以上に強いのかもしれない。
東1局
溢れかえる中張牌のツモが理想的に集まり…
リーチ・ツモ・タンヤオ・赤2・裏1、30006000の先制に成功。
その後、東場は小競り合いが続き、南入したところで場が大きく動き出す。
南1局
ハネマン貯金によってトップ目を守っていた瀬戸熊の手が止まる。
瀬戸熊は南家なのでダブのポンテンは残したい。
とはいえを切るのは窮屈だ。
かを切るのが普通か──?
鬼神のような形相で場を見つめる瀬戸熊。
雷電にとって、残り8試合は決して消化試合なんかじゃない。
「残り8試合だからこそ、俺たち4人の生き様を見せなければいけないんです」
そう語る瀬戸熊の選択は
ポンテンがとれなくなるだった。
なんとも瀬戸熊らしい、まさに生き様を見せつけるような選択だ。
ダブポンに頼ることなく、自分のツモに全てをかける。
こうしておけば好形(待ち)リーチが打てる受け入れは最大限に増えるし…
ツモ・で両面変化と、好形変化も最大となる。
直後だった。
「カン」
場に戦慄が走る。
リーチを打った沢崎がドラの4枚をみせつけたのだ!
この半荘、瀬戸熊以外の3人にとっても大切な半荘だった。
沢崎・松ヶ瀬はMVP争いの大一番だし、日向には6シーズン連続でプラスという記録がかかっていたのだ。