あの夏、いちばん泣いた海…百恵ちゃん、涙の修学旅行【百恵ちゃんのクズコラム】VOL.18

あの夏、いちばん泣いた海…

百恵ちゃん、涙の修学旅行

【百恵ちゃんのクズコラム】

VOL.18 

定時制高校は入るのは簡単だが卒業するのはとても難しいところだった。

実際、百恵ちゃんの代では18人が入学し、そのままストレートで卒業できたのは4人だけだった。毎年

“インフルエンザになったら即留年確定”

というスリリングな状況に立たされながらも首の皮一枚で進級していた百恵ちゃんだったがちゃんとその4人の中に入った。
途中途中で編入生が入ってきて4年生になるころには百恵ちゃんの学年は6人だけだった。
いつも百恵ちゃん

「高校生の頃、成績は学年2番だった」

と言っているのは実は6人中の話なのである。

6人しかいない、となると大変なのは体育の授業だった。6人しかいないのにも関わらず全員休みがちだった為、バスケットやバレーの授業でも1対1になってしまうこともよくあった。
生徒が少なくなってくると体育の授業は半年間ずっと卓球だったり体育館でゴルフをさせられたりしていた。

そんな体育の授業の評価の方法は4年間通じて縄跳びの回数だった。おかげで成績だけは気にしていた百恵ちゃんはいまだに縄跳びが得意だ。

これは4年生の頃の体育の提出物である。いかに百恵ちゃんがまじめだったかわかるだろう。

修学旅行

定時制にも修学旅行はあった。

しかし一学年の人数が少なかったため、二年に一度、3.4年生合同での実施となっていた。それでも会社に勤めながら学校に通っていたり、そもそも修学旅行に興味がない人もいたので生徒11人に引率の先生が2人という少人数で行くこととなった。

行き先は沖縄だった。
百恵ちゃんは沖縄が大好きだったのでとても楽しみにしていたのだが、配られた旅程表のどこを探しても海に入るイベントが入っていなかった。しかもサンダル禁止、踵のある靴を履くこと。と書かれていた。

今思えば学校の修学旅行なんてそんなもんだろうと思えるが当時は納得できなかった。沖縄にまで行って海に入らないという意味がわからなかったし普段北海道ですらスリッパで生活していたのにわざわざ南国でちゃんとした靴を履かされるのは耐え難いことだった。

どうにか抜け道を探した百恵ちゃんは現地ではクロックスを履くことにし、選べるオプショナルツアーで別途8000円を払ってダイビングをすることにした。もちろん一人でである。先生方は呆れていた。

みんなが貝殻でフォトフレームを作ったり琉球ガラスのコップを作っている中、百恵ちゃんはウェットスーツを着て船に乗り込んだ。船で沖まで行き、海に入ったところまではよかった。

その日は波が高く、海に入った瞬間顔を波に飲み込まれ、パニックになった百恵ちゃんはインストラクターのお姉さんにしがみつきながら大泣きした。

数十分泣き続けたのちお姉さんになだめられ、海に入った。しかし海が荒れている為、水中に砂が散乱していたのでたいした綺麗でもなくなんだか魚は気持ち悪いしで散々だった。

疲れ果てた百恵ちゃんだったがその日、もう一つ楽しみにしていたことがあった。
国際通りの路上でとても上手に似顔絵を描いている人がいて友達と

「もし最終日時間があってあの人がいたら書いてもらいに行こう」

と約束していた。

その日もその人はいて、

「何分くらいかかりますか」

と聞くと

「一人20分くらいだよ〜」

ということだった。ミーティングの集合時間まで1時間以上時間があったのでお願いすることにした。

百恵ちゃんが先に描いてもらったのだが30分ほどかかった。まぁそれでもまだ間に合うか、と思ったのだが友達のターンになると急にタッチが遅くなり丁寧に描き始めた。友達は美人だったからだと思う。百恵ちゃんは自分の似顔絵が全然似てなかったのもありとてもイライラした。結局友達のターンは1時間半以上に及び百恵ちゃんたちは集合時間に大幅に遅刻した。『うちなーたいむ』の被害に遭ったのだ。

ホテルに戻ると引率の先生二人がカンカンに怒っていた。
いつもは優しい先生に

「何をしていたんだ!!」

と初めて怒鳴られた。百恵ちゃんは悲しくなってしまい泣きながら

「にがおえを、、かいてもらってて、、にじゅっぷんで、、おわるって、、」

と弁明しながら全く似ていない似顔絵を証拠品として見せると先生達も思いがけない遅刻の理由に拍子抜けしてしまったのか

「は、反省するように」

といって解放してくれた。

こうして百恵ちゃん涙の修学旅行は終わった。

 

次回は2月27日(木)午前0時更新予定‼︎

【田渕家登場人物紹介】

父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。

・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。

・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。

・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。

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