一生遊んで暮らしたい
作家中場利一さん
だいぶ前、西原理恵子さんといっしょに、岸和田市のだんじり祭りの取材に行ったことがあります。
岸和田を案内してくれたのは、ご当地在住の作家中場利一さんと井筒和幸監督。
中場さんの大ヒット作品「岸和田愚連隊」を、井筒監督がナインティナイン主演で映画化している時でした。
その時中場さんからプレゼントしてもらった単行本には
「一生遊んで暮らしたい」
と、本人の座右の銘が書いてありました。
正真正銘モロ遊び人ですね~。
偏見かもしれませんが、遊び人は、西日本に多いように思います。
西原さんとぼくの出身地の高知では、旧友に再会するとこんな会話が多い。
「今、何か仕事しよるか?」
「ブラブラしよる」
「犬のキンタマか、羨ましい」
遊んでることを恥とは思わない文化なんです。
遊び人とは、仕事をしてるしてないに関わらず、あるいはヤクザやカタギに関わらず、日々ギャンブルや酒や女を生活の中心にしている人たちのこと。
地域によっては極道者と呼ばれることもあり、いわゆる極道・ヤクザ者のニュアンスも含まれています。
中場さんから聞いたのが、岸和田の遊び人の通称カオルちゃん。
カオルちゃんはかつて岸和田の愚連隊の頂点に立つ巨漢で、ムチャクチャな乱暴者だったとか。
「パチンコ店にはカオルちゃんのテーマソングがある」
カオルちゃんが、パチンコ店に向かってるという情報が入ると、急きょ店内の音楽が秘密の曲に変わる。
空襲警報を聞いたお客さんたちは、大急ぎでドル箱を現金に変えて逃げ出さなくてはいけない。
モタモタしてると、乱入して来たカオルちゃんにドル箱をそっくり強奪される。
文句でも言おうものなら、その場で頭をカチ割られて、ドル箱よりも治療費が高くなってしまうのだ。
カオルちゃんは、だんじり祭りになると、ヤクザよりもエゲつなく博打場のミカジメを強奪すると言う。
「ラッキー、今年のだんじりはヤツは刑務所に入ってる」
地元で賭場を開いていた遊び人たちは、羽根を伸ばしていたそうです。
ところが、カオルちゃんはだんじり恩赦で釈放されていた。
「誰に断って賭場を開帳してるんじゃあ!」
鬼の形相に、一同縮みあがったそうです。
「岸和田や私の生まれた春木は、ヤウザも来たがりません」
同じく作家の阿佐田哲也さんや伊集院静さんや白川道さんなども、ぼくには遊び人のイメージがある。
作家の場合は無頼派と呼ばれることが多いようです。
サウナで
鯉の滝登り
かつて高田馬場にあった24時間営業のサウナは、一時ヤクザ御用達のようになってました。
新宿や池袋のサウナが、軒並み「刺青お断り」を徹底している時に、全面的に受け入れていたんです。
サウナの前は、窓ガラスがスモークシールドのベンツだらけ。
小さなプールがあり、刺青のお兄さんやお爺さんたちがウヨウヨ泳いでた。
錦鯉のイケスかよ。
刺青やタトゥーのデザインは、その人の職業や任侠団体の種類によって、多少違っているみたいです。
「あれぁ、博徒じゃなくてテキヤ彫りだな」
なんて他人の刺青の品定めをしている男たちがいました。
刺青はヤクザだけでなく、鳶職や大工や解体屋など、一般の人たちでも彫る。
サウナでは、立派な刺青の人には、席を譲るなどの自然な序列がありました。
刺青の中で一番軽く見られるのは、中途半端で彫るのをやめてしまったケース。
「粋な兄ちゃんスジ彫りかい?金が無えのか痛てぇのか?」
スジ彫りというのは、モノクロの線だけの下書きのようなもので、ボカシや色が入っていない中途半端な状態。
「金無し根性無しの半端者にぴったりだな」
「何ぃ!」