多井隆晴、最強位陥落
しかしあなたは、
負けてなお強かった
【D卓】担当記者:東川亮 2021年12月11日(土)
麻雀最強戦2021ファイナル D卓 観戦記
麻雀最強戦2021ファイナル、1stStage、D卓。この戦いで、麻雀最強戦2021において、最後に初戦を迎える男がいる。
現最強位・多井隆晴。
昨年、念願だった最強位をついに獲得。以降1年間にわたり「こんにちは、最強位です」の挨拶と共に、各所で最強戦の魅力を伝えることに尽力し続けてきた。そのプランは間違いなく、来年以降も練っていたはずだ。目指すは連覇、ただ一点。真打ちが、最強戦の舞台に姿を現した。
だが、その座を狙う刺客も、いずれも強敵、くせ者ぞろいである。
井出洋介。
数十年にわたり麻雀界で活躍し続けてきたレジェンドが、「男子プロ因縁の血闘」を制し、現行方式になって初めてこの舞台に登場した。昨年は「ザ・リベンジ」で自身を下した多井が最強位となっている。最強戦では浅からぬ因縁も生まれた相手、リターンマッチを制して、今度は自らが最強位になる番だ。
岡崎涼太。
「男子プロ最強新世代」で優勝し、ファイナルに進出。今大会最年少の23歳、新世代麻雀プロの旗手として名乗りを上げるならば、最強位はうってつけのタイトルである。怖い物知らずの若者が、現最強位やレジェンドも乗り越え、新たな歴史を築くのだろうか。
徳井健太。
「著名人異能決戦」を勝利して、7年ぶり2度目の最強戦ファイナル出場。プロではないが故に、ときとして実力派プロたちの読みを狂わす一打も飛び出すかもしれない。「批判が来ようとも鳴いて鳴いて鳴きまくる」と豪語する奇才は、ビッグネームを相手に波乱を起こせるか。
戦いの主導権を奪ったのは、若武者・岡崎だった。
流局が2局続いた東2局2本場、と軽快に仕掛けていくと、徳井のリーチに押し切って8000は8600の出アガリ、リードを奪う。
さらに東3局では親番でリーチツモイーペーコー、裏ドラを1枚乗せての4000オールを決め、大きく抜け出す。その後はリードを保ったまま他3者のやり合いを見るような展開が続き、最終的にはトップでフィニッシュ。翌日の2ndStageへ勝ち上がった。
対照的に、多井にとってこの試合ではかなり苦しい展開が続いた。岡崎の4000オールの局では、わずか3巡で、と鳴き、役役ドラドラの1シャンテン、ホンイツで仕上がればハネ満というチャンス手が入っていた。だが、これがテンパイしないまま岡崎のリーチを受け、すぐに決着。
東3局1本場も配牌でチートイツドラドラの1シャンテン、世が世ならダブルリーチという手をもらっていたものの、
を仕掛けた徳井の速攻によって局を流されてしまった。さすがの多井でも、テンパイしなければアガれない。
3番手で迎えた最後の親番でも、わずか4巡目で井出のリーチがかかる。
多井も、のトイツ落としでまわりながら1シャンテンにたどり着く。ここでアガるかアガられるかは、勝ち上がりを大きく左右するだろう。それが分かっているから、両無スジのだって躊躇なくたたき切る。ここは行くべき、前に出なければいけない局面なのだ。
だが、決着は徳井から井出へのリーチドラ裏、5200放銃。多井の親が落ちた。
南2局1本場、多井の手はわずか3巡にしてジュンチャンの1シャンテンまで来ていた。だが、既に親の徳井がをポン、仕掛けを入れている。
多井はをポン、ジュンチャンのみ2000点のテンパイを取った。徳井が既に中張牌をバラ切りしており、手の内がある程度整っていて時間があまりないことを察していたのだろう。事実、多井のは徳井がチー、テンパイを入れている。
なまじ打点が見え、巡目も早いだけに仕掛けを待ちたくなりそうなものだが、アガれなければ元も子もない。それに、まだ点差はそれほどついておらず、小さなアガリでも十分に価値はある。井出のを捉えた多井の初アガリは、周囲の手の進行をしっかりと見極めた、シビアな決断によるものだった。
南3局は多井がタンヤオのみのツモアガリ。これで多井が井出をわずかにかわし、2番手に浮上してオーラスを迎えた。
ここまでの苦しい戦いの中で、多井のアガリは、2000は2300と300-500の2回だけ。そんなわずかな加点でも、多井は勝ち上がろうとしていた。手が入らない、チャンス手が実らない、それでもできることはある。
そんな多井は、南4局のこの局面を、後日どのように振り返るのだろうか。と、ペンチャンターツの選択、はドラ。場にはが1枚見え、重なりを考えても、見た目だけなら同等だ。
多井はドラ受けのを切った。アガれば勝ち上がりで打点は不要、ドラは相当に切られにくい牌。また、そのまわりも比較的持たれやすいだろう。普通に考えれば、ソーズ払いが当たり前のように思える。
多井がテンパイ、役なしペン待ち。タンヤオ変化もあり、出アガリ期待のリーチは打たない。このままでも、ツモれば勝ちだ。
しかし次巡、多井の手に訪れたのはまさかの。結果だけを見れば勝ちを逃した形だが、これを決着とできる選択は、果たしてあり得たのだろうか。
手こずる多井を横目に、井出がリーチをかけた。実は前巡に役なしダマテンを入れていたのだが、多井がドラをツモ切ったことで、もう時間はないと判断したのだろう。