あの時、握りしめた
サバ缶の感触は忘れない…
「ももえのかんづめ」
【百恵ちゃんのクズコラム】
VOL.23
シャチョポン宅居候時代
一時期百恵ちゃんはお姉ちゃんの家に居候していた。
その頃お姉ちゃんは2回目の結婚の最中で第一子である長男が産まれたばかりだった。
甥っ子が生まれた日はよく覚えている。いつも元気いっぱいのお姉ちゃんが度々襲ってくる陣痛に対して苦痛に顔を歪めながら
「もうしょうがないからこいつは産むけど二人目は絶対産まないからな!!こいつは一人っ子!!!」
とシャチョポンに向かって凄んでいた。
百恵ちゃんには子供を産むのは無理かな、と思ってしまうくらいお姉ちゃんの出産は壮絶だった。結局その日は病室の隅っこで差し入れに買っていったたこ焼きとアイスを全部自分でたいらげてそのまま甥っ子が産まれる前に帰った。
ちなみにシャチョポンとはお姉ちゃんの当時の旦那さんでお姉ちゃんより17歳年上の地元の老舗のホテルの社長である。
百恵ちゃんとは倍以上の歳の差があったが百恵ちゃんは親しみを込めてシャチョポンと呼び、自分のLINEやFacebookのアイコン写真をシャチョポンの証明写真にしていたほど仲がよかった。
シャチョポンも麻雀が趣味でよく一緒に卓を囲んだ。おそらく今まででお姉ちゃんの次に一番麻雀を相手した相手だろう。
ボロアパート侵入者事件(vol.21参照)によりボロアパートからの撤収を余儀なくされた百恵ちゃんはお姉ちゃんとシャチョポンと生後半年の甥っ子、そして飼い犬のテレサが住むマンションへと移り住んだ。
新築ではあったが狭めの2LDKに大人三人子供一人中型犬一匹というまぁまぁパンパンな状態での生活が始まった。
しかし田渕家の怠惰がシャチョポンにも伝わったのか元からだったのかは知らないが、みんなで育児をしながらほとんどの時間を麻雀に費やすようになり、気が付くと全員ほとんど仕事に行かなくなっていた。
しかも手積みで三人麻雀をやっていたため毎回物凄い長い自山を積まなければならなく、常に肩がバキバキだったし、全員目を離すとすぐにサボるので「牌を混ぜてない!」とお互いがお互いを取締りあっていた。
それでも昼夜を問わない麻雀漬けの日々は百恵ちゃんが家を出るまで続いた。
そんな日々が続き、いつしかシャチョポンは社長ではなくなっていた。
武器
百恵ちゃんの周りにはあまり良くない男の人と付き合ってしまう友達が多かった。
幸い百恵ちゃんは頭のおかしな人はいても暴力を振るったり怒鳴ったりする様な人とは巡り合わなかったが、とりあえず周りの友達は殴られがちであった。
マイちゃんに至っては今まで付き合ってきた人に殴られなかったことがなかったのではないか、と思うほど殴られてきている。が、マイちゃんに限ってだが殴られてもおかしくないよなと思ってしまうほど、相手に対し日々戦を仕掛けていたのであまり関わらない様にしていた。
ある日、お姉ちゃんの友達で百恵ちゃんにも優しくしてくれていた”はーちゃん”と連絡が取れなくなってしまった。
お姉ちゃんと百恵ちゃんは非常に心配していた。当時、はーちゃんは怒ると手を上げてくるタイプの彼氏と付き合っていて別れるために泥沼化している最中だったからだ。
二人で話し合いを重ね、
「家に乗り込むしかない」
という結論に至った。
しかし相手はDV男だ。ビビった百恵ちゃんは武器を持っていくことにした。が、さすがに本物の武器は持っていけない、と思い、家の中の物で一番手頃で硬いであろう『サバ缶』をポケットに忍ばせて出発することにした。
道中拾ったいい感じの石ころもポケットに入れて万全の状態で突撃した。
サバ缶を握り締めながらインターホンを押したあとのドキドキは今でも覚えている。
しかし予想とは裏腹にはーちゃんは普通に出てきて眠そうに
「あ?寝てた」
と言い放った。
ただのお姉ちゃんの早とちりだった。「ごめん」と一言だけ謝り、早とちり姉妹はそのまま帰り道にハンバーグを食べて帰ってきた。
幸いにもサバ缶の出る幕はなかったが今でもサバ缶を見るとやっぱり武器に適してるよな、と思ってしまう。
次回は4月2日(木)午前0時更新予定‼︎
【田渕家登場人物紹介】
・父 コージ:元陸上自衛隊幹部高卒ながら佐官まで登り詰めるも「髪型が奇抜すぎる」という理由で100年に1度あるかどうかの異動の内示取り消しをされた経験がある。現在は三度目の暖かな家庭を築いている。
・母 イクコ:美容師。美容室を自宅で開業するもパチンコにハマり開店休業状態を約20年続けた猛者。おそろしいほど料理が下手。ツーブロックにしたことがある。近況を知らせる連絡では年下のペンキ屋さんとお見合いをしたらしい。
・姉 タエ:無職。1度も定職に就いたことがなく家賃を滞納してはクビが回らなくなりお父さんに払ってもらいに帰ってく るお調子者。過去に大きな交通事故に遭いウン百万円もの保険金を手にするが全てホストクラブに費やした経験がある。
・エリー:田渕家の飼い犬。詐病のプロ。足をひきずったり弱ったふりをしては人間に甘やかしてもらう。動物病院で『至って健康』という診断をされるとそれまでの弱りっぷりを忘れ、凛々しい顔で帰ってくる。趣味は父の顔に噛みつくこと。オスだが思いつきでエリーと名付けられた。
・マイちゃん:母親同士が同じ美容師で仲が良く、物心がつく前から一緒にいた幼なじみ。かなりの美人だが偏差値は2くらいしかない。現在は3人の子供を産み働きながら育てているが一度も結婚したことはなく、更に子供たちは全員父親が違うという斬新なファミリーを築いている。そして最近ロシア人の子供を産んだばかり。
北海道出身。最高位戦日本プロ麻雀協会40期。座右の銘は「ビールは一日3リットルまで」。『近代麻雀』でも同コラムを連載中!